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アルスラーン戦記 第24章「決戦」

  • 2015/09/21(月) 23:59:34

【感想概略】
今回は、アルスラーン軍6万と、聖マヌエル城に陣取るルシタニア・パルス連合軍との戦いに決着がつくお話である。

覚悟を決めたアルスラーンはエラムの負傷に苦悶の表情を浮かべることはあってもパルスを取り戻すという決意は決して揺らがず、恨みと憎悪をエネルギーとするヒルメスと、アルスラーンへの忠義一途のダリューンとの激闘が描かれ、決死隊を率いて特殊任務を遂行するアルフリードの活躍が描かれ、アルスラーンに好感を抱きながらもイアルダボート教の信徒として城の人々とともに死を選ぶしかないバルカシオン伯爵の姿が描かれ、アルスラーンの正体を知って苦悩し、アルスラーンがバルカシオン伯爵を殺したと思って激怒するエトワールの姿が描かれ、見応えがあり、面白かった。

エトワールのキャラクターは原作とは結構違う気がするのだが、アニメのエトワールはよりボーイッシュで真っ直ぐな気性で好きである。
また聖マヌエル城の戦いも、2クールのアニメとして盛り上がるよう原作とは異なる描き方をされており、作戦に大味なところがあったかもしれないが、全体としてよかったとおもう。

【エトワール、アルスラーンの正体を知る】
前回、エトワールは小隊を率いてエラムの後をつけてアルスラーン本陣に潜入、アルスラーンの天幕に斬り込み、アルスラーンと出くわす。
だがエトワールは「王太子アルスラーン」の顔を知らず、「お前のような小僧に用はない」とアルスラーンにいい、「隠れ潜む卑怯者、アルスラーンはどこだ?!」と怒鳴る。
するとアルスラーンはエトワールの前に進み出て、「私がアルスラーンだ」と名乗った。

そして今回。
エトワールは一瞬混乱するが、3年前に出会って以来、何かと出くわすお坊ちゃんが王太子アルスラーンであることを理解すると同時に怒りがこみ上げてきた。

エトワールは「私を謀ったな!」と叫ぶと剣を斬り上げ、アルスラーンは間一髪で斬撃をかわす。
なおもエトワールはアルスラーンの首を狙い、突きを繰り出すが、エラムが割って入り、アルスラーンを庇う。

アルスラーンの天幕には、ファランギース、ナルサス、アルフリードも駆けつけ、形勢はエトワールに不利なのだが、エトワールはアルスラーンの首を狙い続ける。
が、部下から「誰がバルカシオン伯爵さまをお守りするのですか?!」と言われるとついに諦め、天幕から駆け出すと馬に乗って逃走した。

【アルフリード、エトワール小隊を追跡】
アルフリードは激怒し、馬に飛び乗るとエトワール達の追撃しようとするが、ナルサスはエトワール達の跡をつけて城への抜け道を見つけるように指示した。

アルフリードは即座にナルサスの意図を理解し、にやりと笑うと騎兵小隊を率い、感づかれないようにエトワール小隊の追跡を開始。
間もなく、エトワール小隊は洞窟に駆け込んでいった。

これぞ聖マヌエル城への抜け道であり、アルフリードの報告によってナルサスの作戦は最終局面を迎えるのである。


【アルスラーン軍、城門に突撃】
その夜。
アルスラーンは、ナルサスとダリューンに明日は自分も出陣すると言う。
戦況が互角な今だからこそ王が出陣し、将兵の士気を高め励ましたいというアルスラーンの主張に、ダリューンとナルサスは好ましい笑みを浮かべて了承した。

翌日の夜明け前。
アルスラーン軍は聖マヌエル城から少し離れた位置に布陣した。
アルフリード率いる決死隊が抜け道から聖マヌエル城に潜入、夜明けとともに城門を開け、アルスラーン軍本隊が突撃する手はずである。

騎乗して突撃命令を待つ将兵たちに、アルスラーンは訓示する。

「アトロパネテの初陣の日、私は敗走した。
絶望の淵にあったが、今日まで、ダリューンやナルサス、そしてここにいる全ての者が私を支えてくれた。
皆とともにエクバターナを奪還する。そして私は、みなの王となろう!」

アルスラーンの言葉に、将兵たちは鬨の声をあげた。

そして太陽が登り始めると、アルスラーンは朗々と叫ぶ。
「パルスの神々よ。
あまたの英霊たちよ。
願わくば、我らにお力を貸し給え!
ヤシャシィーン!」

アルスラーンは全軍に突撃を命令。
軍勢は聖マヌエル城の城門目掛け突き進む。

一方、聖マヌエル城に潜入したアルフリード隊は作戦を開始。
城壁を駆け上がると城門巻き上げ機の周囲の敵兵を斬り伏せ、城門を上げ始めた。

【アルフリード隊、城門を開く】
城内にパルス部隊が出現したことにルシタニア側は動揺。
ヒルメスの参謀サームは、アルフリード隊は少数であり、すぐに包囲して討ち取り、城門を奪い返すよう命ずる。

ルシタニア兵は次々とアルフリード隊に襲いかかるが、アルフリードたちは奮戦。
その間に、パルス兵二人が必死で城門の巻き上げ機を回し、城門は少しずつ開いていく。

ついに城門は頭をかがめれば潜れるくらいに開き、ザラーヴァントの部隊が突撃。
城門に陣取る敵兵を撃破し、城内に突入する。

この間も城門はアルフリード隊によって徐々に開いていき、ついに3メートルほどの高さまで開いた。
続いてアルスラーンとダリューンを先頭とする部隊が城門から突撃、さらに敵陣を切り崩す。
さらにアルスラーン軍は次々と城内に突入。
ナルサスは部隊を左右に展開し、城壁の敵兵を制圧することを命じた。

【クバード参戦】
アルスラーンとナルサスは兵たちを率いて城の本陣を目指す。
が、ルシタニア・パルス連合軍の戦力は尋常ではなく、次から次へとアルスラーンたちに襲い掛かる。
その時、大剣を振るう隻眼の騎士が出現、圧倒的な強さでルシタニア騎兵を次々と斬り伏せていく。

ヒルメスのもとを去った元万騎長クバードの仕業である。
クバードはルシタニア兵たちの前に立ち塞がると、アルスラーンに言う。
「さあ行かれよ!ご自身が真の王だと言われるなら、ご自分自信で示さねばなりませんぞ!」

アルスラーンはクバードに後を任せ、ダリューンとともに城の奥深くに突き進む。

【ナルサスVSサーム】
城の本丸前に到達したアルスラーンたちの前に、サームが部隊を率いて出現、アルスラーン軍を迎え撃つ。

ナルサスは抜刀するとサームに襲いかかり、斬り結ぶ。
そしてアルスラーンとダリューンに「立ち止まれば、こやつの隊に包囲されるぞ!」と叫び、さらに進むように促す。

【ファランギースVSルシタニア弓兵隊】
アルスラーンとダリューンは兵を率い、ついに本丸に突入した。
だが吹き抜け4階ほどの本丸では弓兵たちが待ち構えており、矢を雨あられのように浴びせ、アルスラーンたちは容易に前進できない。

その時、ファランギースが矢の雨の降り注ぐ中を平然と歩き、吹き抜けホールの中央に進んだ。
敵兵はファランギースに向かって次々と矢を射るが、全く当たらない。

無謀と思える行動だが、ファランギースは心配するアルスラーンに言う。
「私にはミスラ神の加護があります。汚れた邪教の矢が私に当たることなどありえませぬ。」

ファランギースは弓を構えると矢を放ち、次々とルシタニア兵を討ち取りながらアルスラーンに言う。
「非道な輩に悔い改めさせることが出来るのは、殿下をおいて他にないと私は思っております。
お行き下さい。
殿下の行く先、敵は全て私が射抜いて差し上げましょう」

アルスラーンとダリューンは、この場をファランギースに任せ、兵を率いてさらに進む。

そしてアルスラーンとダリューンは城の大広間に到達した。
そこにはバルカシオン伯爵、そして銀仮面がいる。
この場こそが、敵軍の本陣である。

【アルスラーン、敵城本陣に突入】
アルスラーンはヒルメスに「ペシャワールの夜以来になるな、従兄弟どの」と声を賭けた。

ヒルメスは「従兄弟などと呼ばれるのは汚らわしいが、よく来た」というと仮面を外してやけどの傷をさらし、アルスラーンに憎悪の目を向けて言う。
「さぞや、今日ここに辿り着くまでに苦しんだことであろうな、アルスラーン」

ダリューンはアルスラーンを背に庇い、ヒルメスが逆恨みでアルスラーンを追い詰めてきたことを非難する。

だがヒルメスは聞く耳を持たず、「この癒えぬ傷の痛み、貴様に分かるものか!」とアルスラーンに叫ぶ。

凄まじい憎悪を浴びながらもアルスラーンは一歩も退かずに言う。
「分かります。
だが傷ついているのはあなただけではない。
パルスの民、皆だ。
あなたが国を思う正当な血縁だというのなら、どうだろう、私に力を貸してはくれないだろうか?」

アルスラーンの思わぬ言葉に、ヒルメスは言う。
「王位を譲る、とは言わぬのだな…」

これにアルスラーンはこたえる。
「今や私にも、背負うものがある。
皆の望みと、私の望みは同じだ。
私がパルスの王を継ぐ!
国と民をおもう気持ちは、あなたと違いない!」

ヒルメスは激怒。
抜刀し、アルスラーンに襲い掛かる。
が、ダリューンも抜刀、剣でヒルメスの斬撃を受けとめた。

ダリューンはヒルメスと刃を押し合いながらアルスラーンに言う。
「殿下。今の言葉、しかと胸に刻みました。
あなたの家臣でよかった」

その頃、アルスラーン軍はサームの部隊を圧倒。
サームはこの場を支えきれないと判断し、生き残った部下を率いて撤退した。

【ダリューンVSヒルメス】
ヒルメスはダリューンの忠義に苛立ち、アルスラーンを罵倒。
これにダリューンは激怒。
ヒルメスと激しく打ち合い、体当たりを浴びせ、ヒルメスもろとも窓を突き破って落下する。
が、壁に生えている蔦を掴んで落下の速度をやわらげて中庭に着地。

さらに激しく打ち合い、ヒルメスはダリューンの眉間に必殺の突きを繰り出す。
ダリューンは間一髪でかわすが、兜を弾き飛ばされてしまう。

二人は距離を取ると剣を構え、相手の動きから目を離さない。
ダリューンとヒルメスの腕は互角。
ならば、肉を切らせて骨を断つのみ。

ダリューンとヒルメスは駆け出し、瞬時に互いの間合いに踏み込み、必殺の斬撃を繰り出す。
二人の剣は、互いの脇腹に一撃を与え、ダリューンとヒルメスは口から血を噴き出して倒れた。

ヒルメスは何とか立ち上がり、ダリューンもまた剣を支えに立ち上がろうとする。
ダリューンは苦悶の表情を浮かべながらも、その目は意志の光りで輝き、ヒルメスから目をそらさない。

ヒルメスは剣を支えにどうにか立ち、あくまで戦意を失わないダリューンに怒りと憎悪を隠さない。
「信念に突き動かされた忌々しい目だ…」

ヒルメスの周囲の地面から青黒い瘴気が噴き出す。
瘴気から、仮面姿で黒いローブをまとった怪しい男達が出現し、ヒルメスを瘴気で覆い始めた。


「証明してみせようではないか。誰が正しいのか。
まだ殺さぬ…。
お前たちが、心の底から負けたと思わない限りな…
そうでなければ、意味が無い。
そうでなくては、私の怒りが収まることはないのだ」

ヒルメスは呪いの言葉を残し、ローブの男達とともに瘴気の中に消えた。

【聖マヌエル城のルシタニア軍壊滅】
城内のルシタニア軍は壊滅。
生き残ったルシタニア兵のある者は城外に逃亡し、ある者はアルスラーン軍に降伏した。
双刀将軍キシュワードは、声を張り上げて兵たちに念を押す。
「無駄に殺すな!我々は文明国であるパルスの民だ。
略奪もならん!固く命じる!」

そして激戦をどうにか生き残ったエトワールは、バルカシオン伯爵を守るため本丸へ急ぐ。

【イアルダボート教徒たち、信仰に殉ずる】
聖マヌエル城の本丸大広間。
バルカシオン伯爵は、もはや勝敗は決したことを理解した。
アルスラーンはバルカシオン伯爵に「降伏しては下さいませんか?」と言う。

その時、アルスラーンは城の塔にルシタニアの女性たちが集まっていることに気付いた。そして女性たちは手を合わせ、祈りの姿で次々と塔から身を投げていく。

アルスラーンは血相を変え、「戦いは終わった!皆を止めてくれ!」とバルカシオン伯爵に訴える。

だがバルカシオン伯爵は言う。
「優しい異教の王子よ。だからといって止められるものではありません。信仰とはそういうものです。」

バルカシオン伯爵は短剣を取り出し、自分に突き立てようとする。
「私に出来ることは、皆と、そして神と共にあることです。」

アルスラーンはバルカシオン伯爵の自害を止めようともみ合う。
だが伯爵はアルスラーンを振りほどくと短剣を自分に突き刺し、よろめいてバルコニーから落下した。

【アルスラーンVSエトワール】
その時、エトワールが大広間に駆け込んできた。
そして落下するバルカシオン伯爵と、血のついた短剣を手に茫然とするアルスラーンを見た。

エトワールは激怒。
剣を構えてアルスラーンに襲い掛かる。

アルスラーンはエトワールの斬撃をかわし、間合いに踏み込んでエトワールの下腕を掴んで突き飛ばす。

その勢いでエトワールの兜と頭巾が外れ、輝く豊かな金髪が現れた。
アルスラーンはその姿が、つい先日ペシャワール城で出会った少女だと気付いただろうか。

驚愕するアルスラーンに、エトワールは怒りの目を向けて問う。
「伯爵さまを殺したのは、お前か?!」

【予告】
次回「汗血公路」

聖マヌエル城を攻略したアルスラーン軍の次なる戦いの行方はどうなるのか。
そしてエトワールはどうなるのか、アルスラーンと分かり合うことは出来るのか、次回に注目したい。

アルスラーン戦記 第23章「聖マヌエル城の攻防」

  • 2015/09/14(月) 01:33:26

【感想概略】
今回は、アルスラーン軍6万がルシタニア追討のため、聖マヌエル城及びルシタニア兵10万に戦いを挑むお話である。ナルサスとサームの智略のぶつかり合いが描かれ、ダリューンとザンデとの、主への忠義第一の者同士の戦いが描かれ、イアルダボート教の基での平和を信じて戦うエトワールの苦悩、そしてアルスラーンとエトワールとの思わぬ再会が描かれ、面白かった。

【アルスラーン本陣の軍議】
アルスラーン軍の本陣。
王太子の天幕で、アルスラーンはダリューン、ナルサス、エラム、ファランギース、アルフリード、ジャスワントたちを集め、聖マヌエル城攻略作戦の最終確認を行なっていた。

ナルサスは「あらゆる状況は私の頭の中に想定済みでございます」といい、自信を見せる。
もはや全ての打ち合わせは済んでおり、あとは作戦開始あるのみである。
ダリューンは「必ずや殿下に、吉報をお持ちします」といい、戦場に向かう。

残されたアルスラーンは、将兵たちが戦うのに自分は本陣でただ報告を待つだけということに申し訳無さを感じている。
するとナルサスは、「殿下はこの軍の御旗。後方にて戦果を待つことも、指揮官の務めです」と言う。
これにアルスラーンは納得するが、それでも心苦しさを感じずにはいられないようである。

【銀仮面の演説】
一方、聖マヌエル城の中庭には将兵たちが整列し、大将である銀仮面の訓示を受けていた。

銀仮面は将兵たちに説く。
イアルダボート教の教えによればこの世の全てはイアルダボート教徒のものであり、パルスこそ略奪者の他ならない。
さらに自分はアトロパネテ会戦でパルス軍を破りルシタニア軍に勝利をもたらしたと自分の実績を強調。
そして「私に従うがいい!勝利を約束してやろう!」と力強く断言した。
これに将兵たちは歓呼の声を上げ、ルシタニア・パルス連合軍の士気はいよいよ高まるのである。

【攻城戦の開始】
聖マヌエル城の正面、城から少し離れた所にアルスラーン軍が布陣した。
アルスラーン軍には、巨大な攻城塔が5基、そして大木から作った破城槌が多数見える。この攻城塔で敵城壁にパルス兵を突入させ、破城槌で城門を破壊して城内に突撃するつもりのようである。

そしてアルスラーン軍は、巨大な攻城塔を5基押し立て、ゆっくりと前進を開始、ルシタニアの弓の射程内に突入した。

するとルシタニア軍は弓で猛射、アルスラーン軍を容易に城壁に寄せ付けない。
さらに投石器で大きな石を飛ばして攻城塔を攻撃。
一基の攻城塔に大きな石が命中し、倒壊してしまう。

やがてアルスラーン軍の将兵は、敵城壁から自分たちを見下ろす敵将が、かつてパルスの万騎長であったサームであることに気付いた。
これにパルス兵の一部は動揺してしまう。

【エトワール出陣】
聖マヌエル城内。
エトワールはバルカシオン伯爵に、前線で戦う意志を伝えていた。
バルカシオン伯爵は、どうにか思いとどまらせようとするがエトワールの意志は固く、「この世に正しきイアルダボートの教えを広め、そのため異教徒と戦うのが我らルシタニア騎士の役目」といい、伯爵の言葉に聞く耳を持たない。

そしてエトワールは「たとえ伯爵様のお許しが頂けなくとも、私は戦いに参加致します」と言い残し、立ち去ってしまう。

エトワールとしては、全ての人間がイアルダボート教を信仰すれば世界は平和になるのであり、異教徒の王を倒すことはその第一歩だというのに、なぜバルカシオン伯爵は認めてくれない、というところだろうか。

一方、バルカシオン伯爵は、エトワールほどものごとを単純に考えておらず、今回の作戦にも、そもそもルシタニアのパルス遠征にも疑問を抱いており、エトワールが命をかけるほどのものではないと思っているのかもしれない。

【ザンデ出陣】
アルスラーン軍による聖マヌエル城の城攻めは既に数刻に及ぶが、未だに城壁が破れる様子はない。
その時、聖マヌエル城の城門が開き、敵軍の騎兵部隊が姿を見せた。
部隊の先頭に見えるのは、銀仮面の配下、ザンデであり、愛用する巨大なメイスを肩に担いでいる。

そしてザンデは騎兵部隊を率い、アルスラーン軍に突撃した。
どうやら城攻めで疲れているアルスラーン軍を、十分休憩をとった騎兵部隊で倒すという作戦のようである。

(続く)

アルスラーン戦記 第22章「出撃前夜」

  • 2015/09/06(日) 23:11:42

【感想概略】
今回は、決戦を前にしたアルスラーン陣営、そしてナルサスの策を見破るギスカールの智略と内部対立を抱えたルシタニアの内情が描かれ、解放された奴隷が自分の人生を自分の意志で生きるきっかけをアルスラーンによって得る姿が描かれ、イアルダボート教だけが正しいと教わってきたのに異教徒の力を借りることを命じられて苦悩するエトワールの姿が描かれ、面白かった。

【アルスラーン軍の進軍】
パルス暦321年5月。
アルスラーンはルシタニア追討のた、兵6万を率いてペシャワール城を出陣、大陸公路を王都エクバターナに向けて進軍していた。

その先鋒一万を率いるのは、若き三将、オクサス領主の息子ザラーヴァント、万騎長シャプールの弟・イスファーン、そしてザラの守備隊長トゥースである。

【ギスカール、アルスラーン軍の迎撃を命令】
一方、王都エクバターナでは、宰相兼国軍最高司令官のギスカールが諸将を集め、アルスラーン軍接近について会議を開いていた。

ルシタニア側は、アルスラーン陣営が兵6万と発表していることを掴んでいた。
だがどこの国でも、発表される兵数は、実数より多いものである。
これは自軍に対しては景気付けのため、敵に対しては萎縮効果を狙ってのものである。

ルシタニア諸将は、この常識からアルスラーン軍の実数は3~4万と推測、現状の兵力で十分対処可能と考えた。
が、ギスカールはそうは思わず、これもまたアルスラーン陣営の策である可能性を指摘、エクバターナの兵10万を集めて迎え撃つよう指示した。

ルシタニア諸将は、ギスカールの指示に難色を示す。
これは、アルスラーン軍がやはり3~4万だった場合は過剰な出費になってしまうことを考えてのことだろう。

その時、会議の場に、ザーブル城攻略から帰還した銀仮面が現れ、ギスカールの作戦を支持し、兵7万を貸してほしいと申し出た。
自分の率いるパルス兵3万と加えれば兵10万となり、これでアルスラーン軍を討つというのである。

諸将は銀仮面に反発するがギスカールは銀仮面の申し出を承諾した。
だがギスカールは銀仮面に全く気を許しておらず、兵7万を与えた訳ではなく、あくまで貸したのだと念を押すのである。

【エラムとアルフリード、王都に潜入】
王都エクバターナには、エラムとアルフリードが潜入、兵達のよく集る酒場に潜り込んでいた。

酒場では、ヒルメス配下の兵が上機嫌で酒をおごっていた。どうやらザーブル城攻略により、かなり褒美をもらったようであり、パルス兵たちは皆笑顔である。

だが、酒場のルシタニア兵たちは敗戦国のパルス兵が大きな顔をしていることが不愉快そうである。そしてアルスラーン討伐の指揮をとるのが外国人である銀仮面であることも、納得しがたい様子である。

【ヒルメスとアンドラゴラス三世】
パルス王宮の地下牢を銀仮面ことヒルメスが訪れた。
ここには、アトロパネテ会戦に敗北して捕らえられたパルス国王アンドラゴラス三世が捕らえられているのである。

獄中のアンドラゴラス三世は両腕を拘束されて肘も肩も曲げることが出来ず、全身に拷問の跡があり、痛ましい姿である。
が、アンドラゴラス三世の眼光は鋭く、虜囚の身であっても全く臆するところがない。

ヒルメスは、アンドラゴラス三世に明日出陣することを告げる。
だがアンドラゴラス三世は、外国の手先となって自分を国王の座から引きずり下ろし、それでパルスの王になれると思っているのかと言う。

不愉快そうなヒルメスに、アンドラゴラス三世は謎めいたことを言い出す。
「お主は何一つ分かっておらぬ。
全ては予言通り。
運命の歯車は回っているにすぎん。
お主が知らぬだけのこと。
このわしに勝ったと思うなよ、小僧」

ヒルメスは、今度来る時はアルスラーンの首を土産に持ってくると言い捨てて地下牢を去るが、アンドラゴラス三世の言葉と態度が気になる様子である。

翌日。
ヒルメスは、サームとザンデを将軍として、10万の兵を率いて出陣した。
サームは、この戦いが終わったら、ルシタニアを追い出してパルス国王に即位するようヒルメスに訴える。
ヒルメスは、当然のことと答えるが、凶悪な表情である。

【エラムとアルフリード、本陣に帰還】
アルスラーン陣営にエラムとアルフリードが帰還し、アルスラーン、ナルサス、ダリューンの首脳陣に偵察の結果を報告していた。

ナルサスは、敵軍が10万と知り、敵将ギスカールもなかなかやると唸るが、とっておきの策を練ると不敵な笑みを浮かべる。

【兵たちの稽古】
翌日。
陣中でアルスラーンは、ダリューンと剣の稽古に励んでいた。
が、アルスラーンはダリューンに剣を絡め取られ、弾き飛ばされてしまう。

アルスラーンは息を切らせながら、「やはり、まだまだだな」という。
するとダリューンは言うのである。
「そんなことはございません。たくましくなられております。それに君主が目指すべきは武勲ばかりではございません」

その時アルスラーンは、兵たちが自分たちの稽古をじっと見ていることに気付いた。
そしてアルスラーンは、あることに思い至り、ダリューンに何事かを頼んだ。
間もなく、陣営のあちこちでは、兵たちが指導を受けながら武芸の稽古に励んでいた。これはアルスラーン発案による、希望制の武芸の稽古なのだが、大勢の兵が参加しているようである。

【アルスラーンとナルサス】
夜、アルスラーンはナルサスの天幕を訪れた。
アルスラーンは、昼間の新兵たちの稽古から何か感ずるものがあり、その疑問についてナルサスの意見を聞きたくてやってきたのである。

アルスラーンは言う。
これからの戦いは厳しいものであり、犠牲はつきものだが、それでも生きてほしいから、兵たちに稽古への参加を呼びかけた。
すると歩兵たちは、最初は戸惑っていたが、やがて意気揚々と稽古に打ち込んでいた。
稽古など嫌がって参加してくれないかもしれないと思っていたのだが、兵たちの目は活き活きとしていた。
アルスラーンとしては、あの稽古は兵たちの心の何かを動かしたようなのだが、それは何なのかが気になるのである。

するとナルサスは、歩兵たちは解放された奴隷であり、これまで武芸の稽古などしたことのなかったであろうことを指摘して言う。
「人は皆、己が何者であるのか、どこへ進むのか、その答えを求めて生きていくものだと私は思います。
ですが、与えられたことをするしかない奴隷たちは、その気持ちさえなくしている。

今日、稽古に参加した彼らにとって武芸を習うことは、己のために己の意思で決めたこと。
ただ何も考えず従属しているだけの生き方ではなく、一人の人間として生きることを実感できた瞬間だったはずです。
彼らが何者であるか、そしてどう進むかを殿下がお示しになったといっていいでしょう」

アルスラーンは少し考えこむが、この件で不安を抱えている訳ではない。
お主とダリューンには助けられてばかりだというアルスラーンに、ナルサスは「殿下には玉座について頂きませんと、私の夢も叶いませぬ故。よもや、お忘れになってはおられないですよねえ」と笑うのであった。

【エトワール、バルカシオン伯爵にくってかかる】
夜。
大陸公路の聖マヌエル城には、銀仮面の率いる部隊が入城しつつあった。

これを見た隊長エトワールは、城主バルカシオン伯爵にくってかかっていた。
なぜパルス兵の入城を許可するのかと。

バルカシオン伯爵は穏やかな口調で言う。
国王イノケンティス七世の勅命により、パルス・ルシタニア連合軍10万で、アルスラーン軍を聖マヌエル城で迎え撃つ。その指揮は銀仮面卿がとることになった、一歩も敵軍を通してはならぬとの王のお言葉だと。

だがエトワールは納得できず、バルカシオン伯爵に訴える。
なぜ異教徒の力を借りなければならないのかと。

これにバルカシオン伯爵は「これも、イアルダボート神の試練と受け止めることは出来ぬのか?」と諭す。

エトワールは必ずしも納得できないのだが、「試練」という言葉に引き下がった。

一方バルカシオン伯爵は、心労を感じている様子である。
バルカシオン伯爵としては、異教徒の力を借りるやり方には納得していないが、中央の命令には従わない訳にはいかず、あえて少しずるい言い方でエトワールを言いくるめたが、心苦しさを感じているというところだろうか。

【アルスラーン軍、敵地に進出】
朝、アルスラーンは鎧兜に身を包み、諸将と軍勢を率い、丘の上から眼下に広がる荒野を見下ろしていた。
その視線の先に聖マヌエル城があるのだろう。

そしてアルスラーンは決意を口にした。
「必ず、パルス王国、王都エクバターナをこの手で奪還する」

【予告】
次回「聖マヌエル城の攻防」

アルスラーン戦記 第21章「別れの詩」

  • 2015/08/30(日) 23:59:40

【感想概略】
今回は、アルスラーン陣営の内部対立を和らげるため、ギーヴが憎まれ役となって出奔し、ザラーヴァント、イスファーン、トゥースの三人がアルスラーンの人間性に触れて心酔、アルスラーンに改めて忠誠を誓うお話であり、面白かった。

ギーヴは、もともとはファランギース目当てでアルスラーンたちと行動を共にするようになった男である。
だが、アルスラーンの人間性を知るにつれ、アルスラーンに情がうつり、今ではアルスラーンのために憎まれ役となり、そしてファランギースと離れてアルスラーンのために一人旅をすることに何の疑問も持っていない。
このギーヴの姿が今回の大きな見どころだったと思う。

また、ギーヴが追放される時、なんとか思いとどまらせようとするキシュワードは何ていい人なんだろうと思った。

【アルスラーン陣営の内部対立】
前回、アルスラーンは新参の将ルーシャンをサトライプに任命、これによりアルスラーンは側近ばかりを重用する訳ではないことを示し、新参の将たちの不満はある程度は和らいだ。
またルーシャンは実務家として有能かつ勤勉であったようで、出陣の準備は順調に進んでおり、これにはナルサスも笑顔である。

だが、新参の将たちの不満はなかなかに根深い。
新参の将たちにしてみれば、アルスラーンの側近のほとんどは、身分や家柄、宮廷内の地位を重んずる従来のパルス貴人の価値観からすると、見劣りのする人々ばかりである。

まずダリューンは、アトロパネテ会戦直前に万騎長の地位をアンドラゴラス三世から剥奪されている。
軍師ナルサスは智略で三ヶ国連合軍を撃退したものの、アンドラゴラス三世の不興を買い宮廷から追放されている。
ファランギースはただの神官。
エラムは解放奴隷の子。
アルフリードは山賊を働くゾット族。
ジャスワントは外国人。
そしてギーヴは楽士などという得体のしれない人物である。

これにギーヴは一計を案じ、ナルサス、ダリューンと相談した。

【ギーヴ追放】
そして出陣前夜。
イスファーンがギーヴに激怒した。

イスファーンの兄・シャプールはアトロパネテ会戦でルシタニアの捕虜となり、エクバターナの城外でボダン大司祭から拷問を受け、せめてパルスの矢で死ぬことを望んだ。ギーヴはこれに応えて塔の上からシャプールの眉間を射抜き、拷問の辱めと苦痛から解放した。
だがイスファーンは、理屈では分かってはいてもギーヴに対して複雑な思いを抱いており、それがギーヴのからかうような態度に怒りが爆発したのである。

激怒するイスファーンに、ギーヴは薄笑いを浮かべ、シャプールを苦しみから救ったことに恨まれる筋合いはない、むしろ礼を言われても良いくらいだと言う。
これにイスファーンは抜刀、ギーヴも剣を抜き、激しく打ち合う。
見かねたファランギースは二人の間に短刀を投げ、ケンカを中断させた。

そしてダリューンを伴ったアルスラーンが姿を見せた。
ダリューンはギーヴを殴り、イスファーンを挑発したことを叱責した。
「以前よりお前の勝手な行動は目に余っていた。
殿下のお優しさに甘えるのもいい加減にしてもらおう」

だがギーヴは、ダリューンが相手でも全く怯まない。
「口を開けば『殿下、殿下』。
あんたこそ、ちょっと過保護すぎやしないか?」

そしてアルスラーンはギーヴに追放を言い渡した。

すると殴られて頬を腫らしたギーヴは薄く笑って言う。
「良い機会だ…。
殿下には世話になったが、もともと俺は宮仕えなど性に合わなくてな…。
お達者で、殿下。ご武運を祈ってますよ。」

双刀将軍キシュワードは、何とか取りなそうとするが、ギーヴは出て行ってしまった。

【アルスラーン軍、出陣】
ペシャワール城の一室で、アルスラーンは「あれでよかったのだな」とナルサスに言う。
先ほどのギーヴ追放は、実は全て芝居であった。

ナルサスは、アルスラーンに心情的に辛いことをさせたことを詫びるが、「彼が憎まれ役を引き受けてくれたことで、ひとまず諸侯たちの不満を抑えることが出来たでしょう」と言う。

アルスラーンは傷ついた表情を見せながらも納得した。
そして翌日、アルスラーンは軍勢を率い、ペシャワール城を出陣した。

一方、エクバターナのルシタニア本陣もペシャワール城のアルスラーン陣営の動きは察知していた。
宰相兼国軍最高司令官の王弟ギスカールは部下から、パルス全土に散っていたルシタニア部隊はエクバターナに再集結しつつあるとの報告を受けるが、銀仮面の部隊は、未だ姿を見せないという。

するとギスカールは不敵な笑みを浮かべて言う。
「よい。放っておいても奴は必ずここへ来るだろう。
アルスラーンの首を掻き切るためにな。
利用できるうちは、利用してやるまでだ。
最後に笑うのは誰か、楽しみにしているがよい」

【アルスラーン軍の軍議】
アルスラーンは諸将を集め、ナルサスを進行役として軍議を開いていた。
軍師ナルサスは、エクバターナ攻略のため、まずは聖マヌエル城を攻略することを進言する。
さらにナルサスは、この聖マヌエル城の城守バルカシオンは、ルシタニア本国では王立図書館長を務めた人物であり、もともと武人ではなく、これが攻略の鍵となるという。

諸将に異論はなく、アルスラーンは聖マヌエル城の奪還を全軍に命じた。

だがここで、ザラーヴァント、イスファーン、トゥースの三人が、アルスラーン軍の進軍路の近くに位置するチャスーム城塞の攻略を願い出た。この三人、一刻も早く何らかの戦功を挙げたいようである。

が、ナルサスは「頼もしい申し出ですが、その必要はありません。戦略上、このチャスームを攻める必要はないということです」と言い、三将の顔を立てながらも、攻略提案をやんわりと退ける。

そしてアルスラーンは「戦わずにすむ戦で、大事な将兵を失いたくはない。ここは退いてくれぬか?」と三将を説得する。王太子が部下を説得しようとすることに、三将は少し驚いた表情を見せながらも、この場はアルスラーンの言葉を受け入れた。

【チャスーム城塞の攻略】
アルスラーン軍の先鋒は、ザラーヴァント、イスファーン、トゥースがそれぞれ率いる部隊である。
だがザラーヴァント、イスファーンはどんどん行軍速度を上げ、本隊を大きく引き離して走り始めた。これにトゥースは内心で舌打ちしながらも騎兵500を率い、ザラーヴァント隊、イスファーン隊の後をおう。

まもなく、ザラーヴァント、イスファーン、トゥースはチャスーム城塞に突撃、城塞の側面に回りこむ。
が、背後に岩山から丸太や岩が次々と落下。
道を塞がれ、アルスラーン本隊から分断されてしまう。
これぞ、地形を最大限に活かし、トラップで敵兵を分断し、各個撃破するチャスーム城塞の戦法である。

【アルスラーン、三将の救出を指示】
夕方、アルスラーン軍はザラーヴァント、イスファーン、トゥースの部隊が敵軍の罠にはまったことを知るが、アルスラーンには、味方を捨て駒にするという選択はない。

アルスラーンは、進軍停止と救出部隊の準備を命じた。
これにナルサスとダリューンは好ましい笑みを浮かべる。

そしてナルサスはアルスラーンの指示を承諾。
さらにエラムとアルフリードを既に偵察に出したことを報告するのである。

間もなく日が沈み、エラムとアルフリードが帰還するが、さすがの二人も闇の中を行動する部隊は発見できなかった。
このままでは、ザラーヴァント、イスファーン、トゥースの部隊は闇の中でルシタニアに壊滅させられてしまう。

その時、アルスラーンは闇の中で何か音を聞いた。
それは琵琶を爪弾く音色である。

これにファランギースは「どうやら物好きな精霊が、彼らの居場所を教えてくれているようですな」と笑う。

【三将、友軍に合流】
ザラーヴァント、イスファーン、トゥースの部隊は敵地で孤立。
敵の大軍に囲まれていた。

三人は死を覚悟した。
そして自分たちが捨て駒となることで、アルスラーンの本隊は無傷で進軍できる、そう考えれば決して無駄死ではないと笑う。

その時、敵の背後に騎兵部隊が突撃、ルシタニア部隊を撃破しはじめた。
ダリューンの率いる部隊である。

ザラーヴァント、イスファーン、トゥースの三人はこの機を逃さず友軍と合流、壊滅の危機を脱した。

【三将、アルスラーンに忠誠を誓う】
アルスラーンの前で、ザラーヴァント、イスファーン、トゥースの三人は膝をつき、頭を下げていた
ザラーヴァントは言う。
「なぜ戻って来られたのですか?我々を捨て駒にして、そのまま先に進んでしまえばよかったものを…」

するとアルスラーンは言う。
「国を取り戻すためのこれからの戦い、多くの犠牲が必要だろう。
だがそれでも私は、少しでも多くの者に生きてほしい。
どうかお主たちの力を、生きるために借してくれまいか?」

ザラーヴァント、イスファーン、トゥースはようやく理解した。
アルスラーンにとって部下とは、それぞれ尊厳を持つ人間なのであり、決して戦争ゲームの駒なのではないのだと。

ザラーヴァント、イスファーン、トゥースは主君への礼をとり、改めてアルスラーンに忠誠を誓うのであった。

【ギーヴ、アルスラーンのために旅立つ】
一方、崖の上から一件落着を見届けたギーヴは、一人旅立とうとしていた。
そこにファランギースが現れ、「何も言わずに行くつもりか?」と尋ねる。
これにギーヴは、「宮仕えが性に合わんってのは本当だからな。しばらく戻るつもりはない」と答える。

ファランギースはこれ以上は止めず、アルスラーンの伝言を伝えた。
するとギーヴは「生きることは旅立つこと、死もまた同じ」と四行詩を詠じ、軽そうな笑みを残して去った。


【予告】
次回「出撃前夜」

アルスラーン戦記 第20章「騎士の素顔」

  • 2015/08/24(月) 01:28:52

【感想概略】
今回は、アルスラーンとエトワールが偶然再会し、この再会によってアルスラーンはパルスをよりよい国とするためにはヒルメスを退けることも辞さぬ覚悟を固め、エトワールはパルス人に対し、「邪悪な異教徒」とは決めつけられない複雑な思いを抱くというお話であり、おもしろかった。
また、エトワールが従軍して軍功を挙げようとする事情が明かされ、大所帯となり古参と新参者の対立が発生するアルスラーン陣営をいかに円滑に運営するかというナルサスの智略が描かれ、戦国絵巻のおもしろさも楽しめた。

【ペシャワール城に諸侯集結】
前回、アルスラーンは東方要塞ペシャワールでルシタニア追討令、奴隷解放令を発布し、国内諸侯に打倒ルシタニアのため参集するよう檄を飛ばした。
そして今回、ペシャワール城には、兵を率いた諸侯が続々と集まっていた。

集まった諸侯は、まずオクサス領主の息子ザラーヴァント。
万騎長シャプールの弟・イスファーン。
レイの城主・ルーシャン。
などなど、多士済々のようである。

アルスラーンはペシャワール城の大広間の壇上で、参集した諸侯たちの挨拶を受けていた。
この様子を物陰から眺めるアルフリードはファランギースに、自分たちは歴史の分岐点を目の当たりにしているのかもしれないと興奮気味である。
一方ファランギースは、歴史の分岐点という言葉には同意しつつも、味方が大幅に増えつつあることを単純には喜べないようで、物憂げな表情である。

【ダリューンとナルサス】
アルスラーンの諸侯引見の後、ダリューンはナルサスに、これほど人が集まるとは思わなかったと言い、少し驚いている様子である。
するとナルサスは不敵に笑っていう。
諸侯たちにも思惑がある、早めにアルスラーン陣営に参加して軍功を上げて発言力を強め、奴隷解放を思いとどまるよう、アルスラーンを説得するつもりなのだと。

【ジャスワントVSザラーヴァント】
ペシャワール城のアルスラーン陣営では、ナルサスたち古参に対する新参者の不満が高まりつつあった。

夜、新参の将ザラーヴァントはアルスラーンの部屋を訪れた。
が、部屋の入口をジャスワントが見張っており、ザラーヴァントを頑として部屋に入れようとしない。
ジャスワントとしては、夜にいきなりアルスラーンに会いに来た無礼者を通さないのは、アルスラーンの安全のため当然のことである。

だがザラーヴァントは、ジャスワントの取り付く島もない態度に納得がいかない。
そもそも外国人であるジャスワントが、アルスラーンの忠臣顔をしているのも気に食わない。
ザラーヴァントはジャスワントを罵倒、黒犬と罵った。

ジャスワントは激怒して槍を構え、ザラーヴァントも剣を抜く。
二人が同時に一撃を繰り出した瞬間、何者かが割って入り、二人の槍と剣を受けとめた。
双刀将軍キシュワードの仕業である。

キシュワードにたしなめられ、ジャスワントとザラーヴァントは渋々剣を収めた。

【ナルサスの策】
ナルサスとダリューンを、血相を変えたアルスラーンが訪ねた。
ジャスワントとザラーヴァントが斬り結んだと聞いたからである。

ナルサスは言う。
新参の将たちの不満が高まりつつある、彼らはアルスラーンが側近ばかりを重用しているように思っていると。

アルスラーンとしては、自分は皆を平等に扱っているつもりなのに、なぜ分かってくれないのかと少し悔しそうな表情を見せる。
が、アルスラーンはすぐに表情をあらため、どうすれば良いかナルサスに意見を求めた。

するとナルサスは言う。
自分は宰相に等しいサトライプという地位についているが、今後はルーシャンをサトライプとすれば良い。

それで良いのかとナルサスは問われると、自分は軍権を握ってさえいれば良いと笑う。

間もなくこの人事は実行された。
アルスラーンは新参の将であっても重く用いることを示すことになり、新参の将たちはひとまず納得したようである。

【ルーシャン、アルスラーン支持を表明】
アルスラーン陣営の内部対立は一段落した。
だがアルスラーンには王位をめぐり、ヒルメスという競争者が存在する。
そしてアルスラーンは自分が王となってよいものか思い悩んでおり、ヒルメスに深く同情している。

ナルサスは、アルスラーン陣営の首脳陣とルーシャンを集めて会議を開いた。
そしてルーシャンにヒルメスが存命であり、ルシタニアの客将となっていることを明かした。

ルーシャンはヒルメス存命に複雑な様子である。
が、自分が王となるためにパルスを焼土とし、パルスの民を苦しめたヒルメスの行動は肯定できるものではなく、あくまでアルスラーンを支持することを宣言する。

だがアルスラーン自身は、パルスの民を救うためルシタニアを追い出すことに迷いはないが、ヒルメスを退けてでも王となることは、決意できない。

その頃、ザーブル城のボダン一味と戦っていたヒルメスは、ついに城に攻め込み、立ち塞がる聖騎士団を次々と討ち取り、ついに城を奪った。
だがボダンには逃げられてしまう。

【エトワール、一人で偵察に出発】
ペシャワール城の近くの森で、ルシタニアの小隊が野宿し、焚き火を囲んでいた。
かつてエクバターナでアルスラーンと出会ったエトワールが率いる部隊である。

だが兵たちはこの任務に不満そうである。
兵の一人は「エトワールさまは功を焦っておいでなのさ」と言い、隊長の陰口を言う。

その時、袋を肩にかついだエトワールが背後に現れた。
陰口を聞かれた兵は焦りまくるが、エトワールは咎めず、お前たちの気持ちも分かると言い、偵察には自分ひとりで行くという。

エトワールはひとり夜の森を歩きながら、「焦っている」という兵のことばに神妙な表情である。
そしてこの任務に志願した時のことを思い出していた。

エトワールは、聖マヌエル城の城主バルカシオンに、ペシャワール城の偵察を志願した。
バルカシオンは人の良さそうな老騎士であり、血気盛んなエトワールに、危険なことは思いとどまるよう諭す。
だがエトワールは引き下がらず、ついにバルカシオンを押し切ってしまったのである。

エトワールは川岸に着くと兜を脱ぎ、頭巾状の鎖帷子を脱ぐ。
すると、豊かな金色の長髪が現れた。

水面に映るエトワールは金髪の美少女だが、その表情は険しい。
エトワールは心中で「私は立派な騎士にならないといけない。故郷の領民のためにも」とつぶやき、水面に拳を叩きつけた。

【エトワールの変装】
ペシャワール城外には、多数の馬車が止まり、大勢の人々が立ち働いていた。
ここで商人の一人に話を聞く若い女性がいた。
変装したエトワールである。

エトワールは白いブラウスに紺色のロングスカート、そして薄紫色のヴェールを纏い、なかなかの美少女ぶりである。

そしてエトワールは商人から、ペシャワール城にはパルス中から大勢の兵士が集まっていることを聞き出した。

【エトワール、ペシャワール城の宴会に潜入】
ペシャワール城では宴会が行われていた。
おそらく、新参の古参の将兵たちの親睦のためだろう。

エトワールは下働きとして城内に潜入、パルス将兵たちに酌をして回りながら、聞き耳を立てていた。
ザラーヴァントは酔いが回り、上機嫌で打倒ルシタニアの挙兵は五月十日だなどと大声で話している。
エトワールは、馴れ馴れしく肩に手をかける兵を思わず怒鳴りつけてしまうが、その一方で兵たちがアルスラーンの掲げる奴隷解放について話していることが気になる様子である。

【エトワールとアルフリード】
宴会場から少し離れた城の中庭で、エトワールは憤っていた。
「何なんだ、パルスの兵士どもは!勝った後ならともかく!」

するとエトワールに一人の少女が声をかけた。
アルフリードである。

アルフリードは、エトワールが下働きとして頑張っていると思って励ました。
そして笑顔で自らを「ナルサスの情婦」と名乗り、走り去るのだった。

これにエトワールは怒りを覚えた。
「地位にものを言わせて、若い女を妾にしてるのか。
やはりパルスは乱れている」

エトワールとしては、乱れたパルス人どもは、イアルダボード教によって正しい生き方に導かねばならないと再認識したというところだろうか。

そこに酔った兵が現れ、エトワールの肩に馴れ馴れしく腕を回した。
そして自らを騎士と名乗り、「俺と仲良くしておいて損はないぜ」とエトワールに迫る。

この騎士の名を汚す振る舞いにエトワールは激怒。
酔った兵の腕を掴んで一本背負いを浴びせ、石畳に叩きつけた。
兵は一撃で意識を失った。

気絶した兵を前にエトワールは我に返り、またやってしまった、どうしよう?!いっそこの兵を殺すか?!と頭を抱える。

そんなエトワールに何者かが声をかけた。
アルスラーンである。

【エトワール、アルスラーンと再会】
エトワールは、アルスラーンに気付いた。
(前に会ったパルスの坊っちゃんじゃないか。アホ面のくせに、悪運は強い)

一方アルスラーンは、変装したエトワールが誰なのか気づかない。
だがアルスラーンは、エトワールが困っていることに気付くと、気絶した兵を木の根元に寝かせ、エトワールの手をとって駈け出した。
見張りの目を盗んで城外まで案内するつもりである。

【エトワールとアルスラーン】
アルスラーンはエトワールを連れ、物陰に隠れながら城壁の上に辿り着いた。
走り続けてひと休みするアルスラーンが戦いにいくつもりだと知ると、エトワールは言う。
「あなたは、あまり強いように見えませんが。なぜあなたは戦場に赴くのですか?」

エトワールの率直な物言いに少し傷つきながらもアルスラーンは言う。
「昔、奴隷として連れて来られた、ルシタニアの少年と会ったのだ。」

エトワールは自分のことだとギクリとするが、アルスラーンは全く気付かずに話を続ける。
「その少年から初めて、パルス以外の国の話を聞いた。
自分が生きてきた環境や制度だけが全てでないと。
パルスという国の、良いところも悪いところも見えてきた。
だから、この戦いをきっかけに、パルスを少しでも良くしたいと。」

するとエトワールは好ましい笑みを浮かべて言う。
「国をどうこうするなど、お主ではなく、王の仕事であろう。
だが、国と民のためを考えての行動に出自など関係ない。
それはとても尊いことだ」

エトワールの言葉に、アルスラーンは何か気付いたような表情を浮かべる。
そしてすっきりした笑顔でエトワールに言う。
「お主と話していると、気付かされることがあるな。
あの時のルシタニアの少年のことを思い出した」

エトワールはギクリとするが「おほほほっ」と笑ってごまかすのだった。

【エトワール、ペシャワール城を脱出】
アルスラーンはエトワールを連れて、ペシャワール城の裏口に辿り着いた。
ここには見張りはおらず、裏口を出ると商人たちの馬車が多数止まっている。

アルスラーンはエトワールに、馬車の荷台に隠れていれば、他の商人や女性たちが帰る時、一緒に帰れるという。

エトワールはアルスラーンに礼を言い、「戦で命を落とさないよう気をつけて」と声をかけ、二人は別れた。

馬車に隠れながらエトワールは笑みを浮かべる。
「ただの甘ったれたお坊ちゃんだと思っていたが、パルスにも少しはまともな奴がいる。
戦場で会わないよう祈っておくか。」

そしてエトワールは、そういえばアルスラーンの名前を聞いていないことに気付くのだった。

【アルスラーン、四将に協力を求める】
翌朝。
アルスラーンは城内の会議室に、ナルサス、ダリューン、キシュワード、ルーシャンを集めた。
そして4人に言う。
「我々はエクバターナを、パルスを、ルシタニアから取り戻す。
そして国を取り戻したら、従兄弟殿に王位を譲るつもりはない。
私の夢に、力を借してくれるか?」

アルスラーンは、自らの手で王として奴隷解放を実現することを、そのためにはヒルメスを退けることを辞さないことを決意したのである。

すると4人の将は片膝をついて礼を執り、アルスラーンの理想に力を尽くすことを誓う。
そしてダリューンは精悍な笑みを浮かべて言うのである。
「無論でございます。
このダリューンが、否、ペシャワール城の全ての者が、殿下の目標のための力となりましょう」


【予告】
次回「別れの詩」

アルスラーン戦記 第17章「神前決闘」

  • 2015/08/02(日) 23:59:31

【感想概略】
今回は、シンドゥラ国の王位継承争いに決着がつくお話である。
まず神前決闘で勝負するダリューンとバハードゥルの戦いは迫力と緊迫感、そして頭脳戦の面白さがあった。
ナルサスは、ダリューンが戦闘能力が高いだけでなく、頭脳派であることもよく分かっており、ダリューンが絶体絶命の危機に陥っても、ダリューンの勝利を疑わないのはさすがであった。
そしてアルスラーンは、ダリューンを途方も無い危険に晒したとしてラジェンドラに対し激怒するのだが、この主従愛が今回の大きな見せ場だったと思う。
また、宰相マヘーンドラは死に瀕してもラジェンドラを気遣っていたが、マヘーンドラとラジェンドラの互いを思い合う主従愛も見どころであった。

また、エンドカードは「山田くんと七人の魔女」の古河美希による、ドレス姿のアルスラーン、そして興奮するダリューンとナルサスだったのだが、違和感がなくて笑ってしまった

【ダリューン、神前決闘の代理人を承諾】
前回、シンドゥラ国では国王カリカーラ二世が昏睡状態から目覚め、第一王子ガーデーヴィと第二王子ラジェンドラが王位を巡って争っていると知ると、神前決闘で次期国王を決めることを決定した。
するとラジェンドラは、アルスラーンの幕舎を訪れるとダリューンに頭を下げ、神前決闘の代理人となってほしいと頼み込んだ。

そして今回。
ダリューンはラジェンドラの頼みをあっさりと断った。
ラジェンドラは「決闘に勝つ自信が無いというのではあるまいな?」と挑発する。
だがダリューンは、そのような挑発には全く動じない。自分はアルスラーンの臣下であり、アルスラーンの命令以外には従えないと言う。

するとラジェンドラはアルスラーンに頭を下げ、ガーデーヴィにシンドゥラ国を勝手にさせる訳にはいかない、勝手かもしれないが力を貸してほしいと頼み込んだ。
アルスラーンは困った顔でダリューンに「お主に頼めるだろうか?」とお願いする。
これにダリューンは片膝をつき、「殿下の命とあれば」と受諾するのであった。

【ガーデーヴィ、神前決闘の代理人を選ぶ】
一方ガーデーヴィは、ラジェンドラがダリューンを神前決闘の代理人としたことを知り、「パルス人を選ぶとは…」と激怒していた。
ガーデーヴィ及びシンドゥラ国の将兵たちは、これまでの戦いでダリューンの強さを思い知らされているのであるが、ダリューンと互角に戦えそうな戦士をシンドゥラ軍内で探すのはかなり大変そうである。

宰相マヘーンドラは、自分たちもすぐに戦士の選抜を開始すると言う。
だがガーデーヴィはこれを却下し、「バハードゥルの鎖を解くのだ」と命じる。
これにマヘーンドラは驚き、猛反対するのだが、ガーデーヴィは聞く耳を持たない。

【国都ウライユールの人々】
神前決闘の日。
アルスラーン一行は、騎馬で王宮に向かうのだが、国都の人々はアルスラーンたちを遠巻きに眺め、警戒している様子である。
シンドゥラの庶民たちとしては、王家の王位継承争いなど雲の上の迷惑な権力闘争であり、その争いに首を突っ込むパルス人たちもまた胡散臭いというところだろうか。

【神前決闘の闘技場】
神前決闘の舞台は、巨大な闘技場である。
闘技場の中央には円形の広場があり、ここで決闘が行われる。
円形闘技場の周囲は深い空堀となっており、渡し板を外すと出入りは不可能である。

アルスラーンたちは貴賓席に通され、国王カリカーラ二世に拝謁、神前決闘の開始を待つ。

間もなく円形闘技場に、戦装束のダリューンが姿を見せた。
黒ずくめの鎧兜を身につけ、剣と盾を装備し、黒いマントを羽織っている。

そしてガーデーヴィの代理人として姿を見せたのが、鎖に繋がれた信じがたい巨体の男バハードゥルである。
その身長は、2.5メートルはあるように見える。
しかも高身長なだけでなく、その腕も足も首も筋肉で太く、その胸板は厚く、まさに全身が筋肉の鎧である。

バハードゥルの鎖を引くのは屈強の男二人なのだが、バハードゥルはこの二人を引きずって平然と進み、鎖を引き千切ってしまう。
そしてバハードゥルはダリューンの前に立つと、「楽しませろよ。すぐに死んだらつまらない」と言い、凶悪な笑みを浮かべる。

【神前決闘の開始】
いよいよ神前決闘が開始された。
円形闘技場の周囲の空堀からは猛然と炎が吹き上げ、決闘者たちが自力で場外に出ることは不可能である。

バハードゥルは地響を立ててダリューンに突撃、巨大な戦斧を振り下ろす。
ダリューンは盾で受け止めるが、バハードゥルは超重量級の巨大斧を何度も振り下ろす。
ついにダリューンの盾は弾き飛ばされてしまう。

バハードゥルはすかさず斧を振り上げる。
が、ダリューンは瞬時に敵の間合いに踏み込み、剣を斬り上げた。
バハードゥルの胸からは血が噴き出るが、バハードゥルは獰猛な笑みを浮かべ、ダリューンの強さを喜んですらいる。どうやら分厚い筋肉に阻まれ、大した打撃を与えることが出来なかったようである。

さらにバハードゥルは斧で猛攻。
ダリューンはかわしきれず、剣で受け止めるが、巨大斧を何度も叩きつけられると剣に亀裂が走り、ついに折れてしまう。

武器を失ったダリューンを、バハードゥルはさらに猛攻。
バハードゥルの斧は、大破壊力な上に、そのスピードは尋常ではなく、ダリューンはかわし続けるが、とうとうかわしきれず、兜を弾き飛ばされてしまう。

ダリューンは、バハードゥルの猛攻をかわしながら隙を伺い、ついに折れた剣をバハードゥルに突き刺す。
が、バハードゥルの分厚い筋肉に阻まれて致命傷にはならず、剣を突き立てるダリューンをバハードゥルが蹴り飛ばす。

【アルスラーン激怒】
ダリューン劣勢にアルスラーンは顔面蒼白、激しく動揺する。
ラジェンドラは見かねたのか、自席を立ってアルスラーンの傍に行くと「あの男はサメと同じだ…痛みを感じるということがないのだ」と言う。ラジェンドラとしては、せめて情報を伝えたというところだろうか。

だがラジェンドラの言葉にアルスラーンは激怒した。
ラジェンドラの胸ぐらを掴み、怒りの形相で叫ぶ。
「あなたはそれを知っていて、ダリューンを神前決闘の代理人に選んだのか?!
もしダリューンがあの怪物に殺されでもしたら、パルスの神々に誓って、あの怪物とあなたの首を並べて、ここの城門に掛けてやる!」

アルスラーンのあまりの剣幕に、ラジェンドラは気圧され、言葉が出ない。

【アルスラーンとカリカーラ二世】
その時、カリカーラ二世がアルスラーンに語りかけた。
「落ち着きなされ、パルスのお客人。
ガーデーヴィがバハードゥルを選んだのは、ラジェンドラより後のことじゃ。
お客人の部下は、無双の勇者とか。
ガーデーヴィとて考えあぐね、牢より解き放った…。
それほど敵から恐れられる部下を、信じておやりなされ…」

カリカーラ二世の言葉にアルスラーンは落ち着きを取り戻し、決闘の行方を見守る。

一方、カリカーラ二世もアルスラーン主従から感じるものがあるようで、ガーデーヴィに言う。
「もしそなたが、このパルスの王子の、せめて半分でもよい。
部下を大事に思う人間であったら、儂はそなたをとっくに王太子に定めていたであろう」

これにガーデーヴィは「心得ております」と答えるのだが、あまりよく分かっていない様子である。

【ダリューンの策】
ガーデーヴィはバハードゥルの勝利を確信、「そろそろ決着をつけろ!」と命じた。
バハードゥルは巨大斧を猛然と振るい、ダリューンを追い詰めていく。
ついにダリューンは闘技場の隅に追い詰められた。背後には炎が猛然と噴き上がる

バハードゥルは巨大斧を振り上げる。
その時、ダリューンはマントを外し、炎を潜らせて火をつけ、バハードゥルの頭に巻きつけた。

さしものバハードゥルも、燃え上がるマントに苦しむ。
もはや斧など持っていることは出来ず、斧を手放し、両手で必死に燃えるマントをむしりとった。

バハードゥルが武器を失った、これぞダリューンが狙う勝機である。
ダリューンは腰に装着していた短刀を抜き、バハードゥルの間合いに踏み込み、喉に突き刺す。
さしものバハードゥルも、血を吹き上げて絶命した。

これにナルサスは、アルスラーンに説明する。
「折れた長剣以外に武器が無いように見せかけて、敵の油断を待っていたのです。奴もなかなかの策士ですね」
実はナルサス、ダリューンは頭脳派でもあることをよく知っており、ダリューンの勝利を疑っておらず、ダリューンの作戦まで見抜いていたのである。この説明も、アルスラーンの教育の一貫であろう。

そしてカリカーラ二世は、ダリューンの勝ちと裁定を下した。
これにラジェンドラ派の将兵たちは「ラジェンドラ様!新しき国王!」と歓呼の声を上げる。

【ガーデーヴィ、クーデターを起こす】
だがガーデーヴィは納得しない。
カリカーラ二世に剣を向け、「父上、私に王位をお譲り下さい」と脅迫。
さらに親衛隊にラジェンドラ抹殺を命じた。

ラジェンドラは即座にカリカーラ二世を保護するが、闘技場はたちまちガーデーヴィ派とラジェンドラ派が斬り結ぶ騒乱状態に陥ってしまう。

ナルサスたちは、アルスラーンを守って敵中突破を図るが、敵の数は圧倒的であり、アルスラーンの守りが手薄になってしまう。
その時、ジャスワントが割って入り、敵の攻撃からアルスラーンを救う。

アルスラーンは、先日まで敵方であったジャスワントが、自分を守ってくれることに驚く。
するとジャスワントは「これはシンドゥラ内の諍い。他国の王族に非礼があったとなれば、国の恥となります」とあくまで自国の名誉のためにアルスラーンを守るのだと言うのだが、純粋にアルスラーンを守りたいというのが本心だろう。

【ガーデーヴィ、宰相マヘーンドラを斬る】
ガーデーヴィは兵を率いてラジェンドラと睨み合う。
その時、宰相マヘーンドラは意を決し、ガーデーヴィに訴えかけた。
「私どもの負けにございます…。どうかお覚悟をお決めなさいませ。」

これにガーデーヴィは激怒、宰相を裏切者と罵り始めた。
「寝返ったな!ラジェンドラの犬めと、裏でどんな取引をしたのだ?!」

宰相マヘーンドラは必死に、潔く負けを受け入れるようガーデーヴィに訴える。
だがガーデーヴィは聞く耳を持たず、ついに剣を抜くと宰相マヘーンドラを斬り捨てた。

これには、ガーデーヴィ派の将兵たちも動揺する。
どうやら将兵たちがガーデーヴィの命に従うのは、宰相マヘーンドラがガーデーヴィを補佐するからであり、宰相を斬ったガーデーヴィに従うことには躊躇するようである。

【猛虎将軍】
その時、敵兵の群れと戦っていたダリューンが大音声で叫んだ。
「剣を収めよ!!
この戦いは、お主らの国の行く末を決める、神聖なものではなかったのか?!
不服ある者は、今ここで俺に勝負を挑め!」

ダリューンの呼びかけに、シンドゥラ将兵たちは「猛虎将軍(ショラ・セーナニー)!」と叫び、戦いを止めた。

そしてラジェンドラは将兵たちに言い渡す。
「ガーデーヴィは神意と勅命、共に背いた!
奴に従う者は、大逆罪の共犯とする!」

もはやガーデーヴィに従う将兵はおらず、ガーデーヴィは拘束された。

【宰相の死】
騒乱が収まると、ジャスワントは宰相マヘーンドラの元に駆けつけるが、マヘーンドラは既に死に瀕していた。

マヘーンドラはジャスワントに語りかける。
「悲しむな、ジャスワント…
儂は仕える主君を誤った…
愚か者に相応しい最期だ…。」

マヘーンドラはジャスワントの顔をなで、「お前には、何も報いてやれなかった…お前は、道を違えるな…」と言い残し、ジャスワントの腕の中で死んだ。
ジャスワントに看取ってもらえたことが、マヘーンドラにとってせめてもの救いだったと思う。

【予告】
次回「ふたたび河をこえて」

アルスラーン戦記 第16章「落日悲歌」

  • 2015/07/26(日) 21:28:26

【感想概略】
今回は、第二王子ラジェンドラ・パルス連合軍と第一王子ガーデーヴィ派のシンドゥラ軍が激戦を繰り広げるお話である。

中世ペルシア風の軍勢と中世インド風の軍勢の集団戦闘は迫力があり、戦象部隊と騎兵部隊の戦いという夢の取り組みが描かれ、ラジェンドラ・パルス連合軍6万が、ガーデーヴィ軍15万という倍以上の軍勢といかに戦うかという知恵くらべの面白さがあり、まさに戦記物として大いに楽しめた。

そして宰相マヘーンドラは、部下に無慈悲なガーデーヴィ王子からジャスワントを何かと庇うのだが、この宰相マヘーンドラとジャスワントの主従愛もまた今回の見どころだったと思う。

また、シンドゥラ国王カリカーラ二世を演ずるのが、1992年のアニメ映画「アルスラーン戦記Ⅱ」でラジェンドラを演じた梅津秀行というところも大いに楽しめた。

【ガーデーヴィ軍、出陣】
前回、アルスラーンたちはパルス軍を率い、シンドゥラ領内に進軍した。
シンドゥラ国の第二王子ラジェンドラの王位継承を助けるためである。

そしてパルス軍の前に立ち塞がるグジャラート城塞を、ナルサスの智略とダリューンの率いるパルス将兵の武勇で陥落させた。

そして今回。
ラジェンドラと対立する第一王子ガーデーヴィは、戦象部隊を含む歩騎15万の大軍を動員して出陣した。
圧倒的な大軍であり、特に戦象部隊は、あのアンドラゴラス三世ですら正面衝突を避けたほどの強敵である。

【ガーデーヴィ、ラジェンドラに激怒】
前回、アルスラーンに解放されたジャスワントは、ガーデーヴィ陣営に帰還した。
だがガーデーヴィはジャスワントに激怒。
「グジャラート城が落ちたのは貴様の落ち度だ!」と怒鳴り、ジャスワントを手打ちにする勢いである。

すると宰相マヘーンドラは、ガーデーヴィをどうにかなだめ、ジャスワントを救う。
ガーデーヴィは「また失敗があれば容赦せぬ」と言い捨て、立ち去った。

心底申し訳無さそうにジャスワントは宰相マヘーンドラに詫びる。
これにマヘーンドラは「パルスの軍師の知恵が、並外れていただけだ」と言い、ジャスワントをいたわる。

同時にマヘーンドラは、ガーデーヴィの振る舞いに「あれでは臣下の心が離れていくばかりだ…」とつぶやき、表情を曇らせる。

【ガーデーヴィ軍、二手に分かれる】
ガーデーヴィは15万の軍を、13万の本隊と、2万の別働隊に分けた。
そして別働隊2万をグジャラート城塞に向かわせた。パルス軍をラジェンドラ軍と合流させないためである。
本隊13万は、ラジェンドラ全軍5万の3倍近い兵力であり、ガーデーヴィとしては必勝を確信しているようである。

一方、ガーデーヴィ軍の別働隊が動いたことを知ったナルサスは、ガーデーヴィ派の動きを兵法の常道と評するが、不敵な笑みを浮かべて何やら企んでいる様子である。

間もなく、ガーデーヴィ軍の別働隊は、グジャラート城塞の前に布陣した。
城を見ると、城壁には多くの将兵の姿が見え、たまに矢が飛んでくる。
ガーデーヴィ軍別働隊は、グジャラート城塞を包囲し、慎重に城内のパルス軍の様子をうかがう。

【ガーデーヴィ軍VSラジェンドラ軍】
パルス暦321年2月。
ついにラジェンドラ軍とガーデーヴィ軍が激突、シンドゥラ国の王位を賭けた大合戦がはじまった。

ラジェンドラ軍は兵力では劣るが士気は高く、兵数に勝るガーデーヴィ軍を圧倒する。
またガーデーヴィ軍は、川が邪魔で移動に手間取り、全兵力がなかなか戦闘に参加できない。これもまたラジェンドラ側の策のようである。

ガーデーヴィは味方劣勢と見ると、戦象部隊の投入を命令。
戦象部隊が突撃を開始した。

戦象部隊の武器は、その巨体怪力である
密集陣形で襲い掛かる象の群れに、ラジェンドラ軍の歩兵・騎兵は手も足も出ず、無残に踏み潰され、なぎ倒されていく。

ラジェンドラ軍は、弓兵部隊により矢の一斉射撃を開始。
戦象部隊に矢の雨を浴びせる。
が、戦象部隊の象たちは、兜、胴鎧、脛鎧によって装甲化されており、矢をことごとく跳ね返してしまう。

ラジェンドラは、寒さに弱いはずの象たちが、なぜあのように動けるのかと驚愕。
すると側近は、おそらくガーデーヴィは、象たちに興奮剤を与えたのだろうと指摘する。
ラジェンドラとしては、今は冬であり、戦象部隊は十分力を出せないと考えたことが挙兵の理由の一つのようであるが、戦象部隊の活用についてはガーデーヴィの方が一枚上手ということだろうか。

さらにラジェンドラに悪い知らせが入った。
グジャラート城塞は、ガーデーヴィ軍の別働隊によって包囲されており、パルス軍は動けないというのである。

ラジェンドラは、戦象部隊の前に倒れていく兵たちに苦しい表情であり、「これ以上、俺についてきた者たちを死なせるわけには…」とつぶやき、撤退命令を出すつもりのようである。
勝ち目の無い戦いに兵を損ねることを潔しとせず、部下たちの命を大事におもう、実は心優しいラジェンドラである。

その時、丘の上に新たな軍勢が出現した。
アルスラーンの率いるパルス軍である。

ラジェンドラと配下の将兵たちは、援軍到着に喜ぶが、ラジェンドラはグジャラート城塞で包囲されているはずのパルス軍がどうやってここまで辿り着いたのかと目を丸くする。

するとアルスラーンは、「ちょっと飛んでまいりました」と笑う。

その頃、ガーデーヴィ軍の別働隊はグジャラート城塞に突入。
が、城壁に立つ兵たちは、全て張り子である。
実はパルス軍は、ガーデーヴィ軍の別働隊が到着する以前に、数人の兵を残してグジャラート城塞を脱出していた。
これぞナルサスの奇策である。

別働隊の指揮官は、城内には誰もおらず、数名のパルス兵が裏門から逃走したとの報告を受け、ようやく自分たちが敵の策にはまったことに気付き、激怒して張り子を踏みつけるが、後の祭りである。

【戦象部隊VSパルス軍】
ダリューンは、騎兵部隊を率いて戦象部隊に突き進む。
が、戦象部隊の前で左折、そのまま戦象部隊から遠ざかっていく。

これにガーデーヴィは、パルス軍が戦象部隊に恐れをなして逃げ出したと確信した。
ガーデーヴィの部下は、戦象部隊を後退させることを進言するが、ガーデーヴィは今こそ敵を壊滅させる好機と進言を退け、戦象部隊の突撃を命じた。

一方、ダリューン隊を追う戦象部隊の象使いたちは、進路上の茂みの中に、大型弩砲が大量に潜んでおり、自分たちに狙いを定めていることに気付いた。

象使いたちは必死で象に止まるよう命ずる。
だが興奮剤を与えられた象たちには、象使いの声は届かない。

そしてパルス軍は、大型弩砲を次々と発射。
猛スピードで射出された多数の槍は、次々と象たちに命中。
さしもの装甲化された戦象たちも次々と討ち取られ、戦象部隊は壊滅した。

【ラジェンドラ・パルス連合軍の勝利】
戦象部隊を葬り去ったパルス騎兵部隊は再度ガーデーヴィ軍に突撃。
ダリューンは槍を手に愛馬を駆り、ガーデーヴィの座乗する象に突撃すると跳躍、象に飛び乗った。

ガーデーヴィは「槍に関しては、俺も腕に覚えがある!」と自信満々で槍を構える。
が、あっさりとダリューンに槍を弾き飛ばされてしまう。

ダリューンは、ガーデーヴィを討ち取ろうと槍を構える。
その時、ジャスワントが割って入ってガーデーヴィを守り、ガーデーヴィを馬に乗せて離脱した。
ファランギースはラジェンドラに弓矢を向けるが、アルスラーンは「頼む、撃たないでくれ」と言い、ラジェンドラを救う。

ファランギースは、「殿下があの者を助けるのは、これで二度目でございます。あの者に恩を感じる心があればよろしゅうございますが…」と言う。アルスラーンの甘さを批判はしないが、心配はしているというところだろうか。

戦象部隊を失ったガーデーヴィ軍は敗北、ラジェンドラ・パルス連合軍は勝利をおさめた。

【ガーデーヴィ、またジャスワントに激怒】
シンドゥラ国の国都ウライユールの王宮で、ガーデーヴィは、ジャスワントに激怒していた。
「なぜあの場で逃げた?!お前は私を救ったなどと思ってはいまいな!?あの逃走で我が軍の敗北は決定した…」と言い、ジャスワントの頭を踏みつけて罵る。
あの場にジャスワントが駆けつけなければ、ガーデーヴィはダリューンに討ち取られていたと思うのだが、ガーデーヴィはそうは思わないようである。

宰相マヘーンドラは、怒り狂うガーデーヴィを必死になだめ、ジャスワントを救う。
さしものガーデーヴィも、宰相には多少なりとも遠慮があるのか、「役立たずどもめ!」と吐き捨てると立ち去った。

宰相マヘーンドラは「儂は、補佐する相手を間違っていたかもしれん…」とつぶやく。
マヘーンドラも、今回の戦いでガーデーヴィの部下に対する無慈悲さを初めて思い知らされたというところだろうか。

【カリカーラ二世、目を覚ます】
その頃、昏睡状態であったシンドゥラ国王カリカーラ二世が目を覚ました。
ガーデーヴィは、すぐに父王の元にかけつけた。
カリカーラ二世は、息子が来てくれたことを喜び、ラジェンドラも呼ぶように言う。

するとガーデーヴィは父王に、ラジェンドラが自分を殺して王位を奪おうとしていると主張し、ラジェンドラを誅伐し、自分を正式に次期国王にしてくれるよう訴えた。

だがカリカーラ二世は、ガーデーヴィの言葉を鵜呑みにしない。
「大方、見苦しい兄弟げんかをしておるといったとこじゃろう」と言い、何が起きているのか見抜いてしまう。これにはガーデーヴィも返す言葉が無い。

そしてカリカーラ二世は、次期国王を神前決闘で決めることを決定するのである。

【ラジェンドラ、神前決闘の代理人を頼む】
神前決闘については、ラジェンドラとアルスラーン陣営にも伝えられた。
だがほとんどのパルス人にとって、神前決闘などというものは初耳である。

するとファランギースが解説する。
神前決闘とはシンドゥラ国の特殊な裁判方法の一つであり、争う二名が武器を取って決闘し、その勝者を神々の名において正義と認めるというものだと。

そしてラジェンドラは、神前決闘は代理人を立てることも認められていると言い、アルスラーンとダリューンに神妙な顔で頭を下げ、ダリューンに代理人になってほしいと頼み込んだ。
これには、ダリューンも、アルスラーンも、そしてナルサスすらも驚いている様子である。

【予告】
次回「神前決闘」

アルスラーン戦記 第15章「シンドゥラの黒豹」

  • 2015/07/19(日) 23:59:58

【感想概略」
原作既読だが、読んだのがずいぶん前でだいぶ忘れており、毎回新鮮な気持ちで楽しんでいる。

今回は、シンドゥラ国の第二王子ラジェンドラと同盟を結んだアルスラーンが軍勢を率いてシンドゥラ国王都へ向けて進軍。

立ち塞がる敵軍を撃破し、シンドゥラ国宰相マヘーンドラの密偵ジャスワントとナルサスの知略がぶつかり合い、敵城グジャラート城塞を奇策により短期間で陥落させ、そしてナルサスとダリューンは、アルスラーンがパルス王家の血を引いていないことに気付いてもアルスラーンを支える心は揺らがない姿が描かれ、自らの出自に思い悩むアルスラーンの心をダリューンが支える姿が描かれ、面白かった。

【ガーデーヴィー派の軍勢との戦い】
パルス暦320年冬。
王太子アルスラーンは、シンドゥラ国第二王子ラジェンドラと同盟を結び、軍勢を率いてペシャワール城塞を出立、シンドゥラ領内に進軍した。
ラジェンドラの王位継承を助けるためであり、代わりにラジェンドラは、アルスラーンがルシタニアからパルスを奪還する際に協力する約束である。

間もなく、パルス軍の前に敵軍が出現した。
シンドゥラ国第一王子ガーデーヴィーの一味の差し向けた軍勢である。

勇将ダリューン、軍師ナルサスはパルス軍を率いてシンドゥラ軍に突撃。
元々精強なパルス軍は、ダリューンの指揮とナルサスの策により、更に強さを発揮。
さらにギーヴ、ファランギース、アルフリード、エラムという一騎当千の戦士が効率的に戦い、敵陣を突き崩す。
ついにパルス軍は、敵軍を撃退した。
ここらへん、ダリューンの武勇、そして中世ペルシア風の軍勢とインド風の軍勢との迫力ある集団戦闘が楽しめた。

崖の上から戦闘を見物していたラジェンドラは、パルス軍の強さ、ことにダリューンの武勇を褒め称える。
が、ダリューンは険しい表情を崩さない。

ダリューンとしては、ラジェンドラは全く信用出来ず、アルスラーンにとって有害な行動をとろうものなら躊躇なく斬り捨ててしまいたいというところだろうか。

一方ナルサスは、ラジェンドラが何か事を起こすことを待っていると言い、不敵な笑みを浮かべる。

【アルスラーン、新年の儀を執り行う】
年も開けてパルス暦321年の冬。
アルスラーンとパルス軍は、新年をシンドゥラ国で迎えた。

そしてパルス軍将兵の居並ぶ前で、アルスラーンは国王の名代として、新年の儀を執り行った。
これに将兵たちは、アルスラーンの名を叫んで称える。

つつがなく儀式は終了すると、次は新年の宴席であり、酒と料理に将兵たちも笑顔である。
一方、大役を果たしたアルスラーンは、陣の外れで一息ついていると、ラジェンドラが従者たちを率いて現れた。

ラジェンドラは上機嫌で新年の挨拶に来たと言い、アルスラーンの首に腕を回して馴れ馴れしく抱き寄せる。
そして「我が友にして心の兄弟たるアルスラーン殿。相談があるのだが」と言うのだが、何やら企んでいる様子である。

【アルスラーン、ラジェンドラの作戦を承諾】
アルスラーンは、ダリューン、ナルサス、エラム、ファランギース、ギーヴたちにラジェンドラの頼み事について相談していた。
ラジェンドラの頼みとは、パルス軍はラジェンドラ軍とは別の道を行き、ガーデーヴィーの軍を挟み撃ちにするというものである。

だがダリューンは、ラジェンドラはパルス軍に敵を押し付けるつもりだと言い、ラジェンドラの作戦に反対。ギーヴ、ファランギースも同意見である。

ナルサスは、「殿下の部下にどうやら阿呆は一人もおりませぬようです。ですが、その提案 ご承諾なさいませ。」と言う。
ナルサスいわく、ラジェンドラは信用出来ない。ならばこそ、距離を置いた方が良い。代わりに糧食、資材、運搬用の牛馬、地図と案内人を要求し、ラジェンドラの作戦を承諾する旨を伝えればよい。

アルスラーンはナルサスの献策を採用、ラジェンドラもこれを承諾、間もなくラジェンドラは案内人として長身の若者ジャスワントを派遣してきた。

【グジャラート城塞攻略】
シンドゥラ国の国都ウライユールを目指すパルス軍の前に立ち塞がるのが、グジャラート城塞である。
軍師ナルサスは、ギーヴと案内人ジャスワントを、グジャラート城塞に休戦の使者として送り込む。

そしてギーヴは、城司ゴーヴィンと副城司ターラに、パルス軍とラジェンドラ陣営の要件を伝える。
パルス軍と休戦し、グジャラート城壁の通過を認めてほしい、無論ラジェンドラが王となった暁には望むままの褒美が与えられると。

これに対し、城司ゴーヴィンは明日には返答すると言い、宴席を設けてギーヴとジャスワントをもてなす。
そして執務室で副城司ターラと、ギーヴの伝えた策に乗るべきか思案する。

すると執務室にジャスワントが現れ、自分が宰相マヘーンドラの部下であることをゴーヴィンとターラに明かし、ギーヴの言葉は全てデタラメと説き、ゴーヴィンたちを味方に引き入れた。

そしてパルス軍の真の作戦は、ゴーヴィンたちが休戦の申し入れに気を取られている間にグジャラート城塞の脇を密かに通過してしまうことだと言い、パルス軍の裏をかき、糧食部隊を奇襲する作戦を進言した。

城司ゴーヴィンはジャスワントの作戦を採用し、軍勢を率いて密かに城から出撃。ジャスワントの合図を待つ。

ところがナルサスは、このジャスワントの謀略すら利用していた。
そもそもナルサスは、ジャスワントが密偵であることにはとっくに気付いており、その上で泳がせていたのである。
ジャスワントは合図を出す前に、ギーヴに敗れ、捕らえられてしまう。

一方、城司ゴーヴィンはいつまでもジャスワントの合図が無いことにしびれを切らし、補給部隊を奇襲。
だが、その正体は補給部隊に擬装した戦闘部隊である。
奇襲のつもりが逆撃されてゴーヴィンの軍勢は苦戦。
ゴーヴィンはアルスラーンに突撃するが、ダリューンの槍で討ち取られた。
そして指揮官を失った敵軍は崩壊、グジャラート城塞はパルス軍の軍門に下った。

ここら辺、ジャスワントとナルサスとの知恵比べの面白さが楽しめた。

【アルスラーン、密偵ジャスワントを解放】
アルスラーンの前に、縛り上げられたジャスワントが引き据えられた。
アルスラーンは、ジャスワントが裏切ったことがショックだったようで「ジャスワント、初めから裏切るつもりだったのか?」と問う。

だがジャスワントは、堂々と胸を張って言う。
「裏切る?
命に従い、ただ忠誠を尽くしただけだ。
俺が忠誠を尽くすのは、我が父に等しい宰相マヘーンドラ様のみ」

これにアルスラーンは、父に等しいとはどういう事かと尋ねる。
するとジャスワントは「孤児であった俺を育ててくれたのがマヘーンドラ様だった」と答えた。

既に死を覚悟したジャスワントに、ギーヴは剣を振り上げる。
が、アルスラーンはギーヴを制止して言う。
「この者を解放してやってくれ」

ジャスワントはアルスラーンの言葉に驚愕。
一方、ギーヴはジャスワントを戒める縄を剣で両断。
ジャスワントは走り去った。

これにナルサスは「正直お甘いと思いますが…私どもの力が及ばぬほどの害にはならないと存じます」と言う。
アルスラーンの裁きを厳しく批評しながらも、安心させようとしているというところだろうか。

【アルスラーンとダリューン】
パルス軍が接収したグジャラート城塞の城壁。
アルスラーンは、自分の父母はアンドラゴラスとタハミーネと思っていたのに実はそうではないことに気付き、傷つき思い悩んでいた。

そこにダリューンが現れ、「殿下。冬の夜風はお身体に障ります」と声をかける。
が、アルスラーンは言う。
「ジャスワントは自分の親を知らぬと言った。
私も、自分が誰の子なのか分からぬ。
私は一体、何者なんだろう…」

するとダリューンはアルスラーンに言う。
「殿下のご正体は、このダリューンが存じております。
殿下はこのダリューンにとって、何よりも大事な主君でございます。
それではいけませんか?殿下」

アルスラーンはダリューンの言葉に涙を流し、礼を言った。
「ありがとう、ダリューン」

このアルスラーンとダリューンの主従愛が、今回ラスト最大の見所だったと思う。

【予告】
次回「落日悲歌」

次回は、あのアンドラゴラス三世ですら敵わなかったというシンドゥラ軍の戦象部隊とナルサス及びダリューン率いるパルス軍との戦いが見られるようであり、まずは迫力の合戦絵巻が楽しみである。

アルスラーン戦記 第14章「異国の王子」

  • 2015/07/12(日) 23:30:10

【感想概略】
原作小説既読であるが、読んだのがだいぶ前のことなのでかなり忘れており、毎回新鮮な気持ちで楽しんでいる。

今回は、「アルスラーン戦記」の名物キャラクターの一人、シンドゥラ国のラジェンドラ王子が大軍を率いて登場。パルス王太子の首をとるつもりがナルサスたちの捕虜にされ、アルスラーンと出会うお話であり、陽気で物事を自分の都合の良いように表現するラジェンドラ節が炸裂して面白かった。

また今回特に印象的だったセリフは、やはりラジェンドラの「こんなにかわいい大将だったか」であろう。アルスラーンの可愛さは周辺諸国に知れ渡っているということだろうか。
こうなったらナルサスは、アルスラーン軍団の旗印を「かわいいは正義」にすれば、味方が集めやすくなるかもしれない。

【シンドゥラ軍、パルスに侵攻】
東方要塞ペシャワールに、東方の大国シンドゥラ国の大軍が迫っていた。
シンドゥラ軍5万を率いるのは、ラジェンドラ王子である。
実はシンドゥラ国では、ラジェンドラ王子と兄・ガーデーヴィー王子が王位を巡って対立していた。ラジェンドラとしては、パルスが混乱する隙に乗じて東方要塞ペシャワールを占領し、軍事的成功によって王位継承争いを優位にしたいということのようである。

【ペシャワール城塞の軍議】
ペシャワール城塞では軍議を開き、アルスラーンはシンドゥラ軍を迎え撃つことを決定する。
そしてナルサスの策により、兵1万が出陣することとなった。

出陣前、アルスラーンはナルサスとダリューンに言う。
「私もやはり、出陣した方がよくないか?私だけ、ただここで座って待っているのでは申し訳が立たない。私にも、何かできることがあるはずだろう?」

するとナルサスは言う。
「今やあなたは、このペシャワールの数万の兵を束ねる身。いちいち御自ら戦場に出られる必要はありません。」

ダリューンも「今回は、我々にお任せ下さい。必ずや吉報をお届けしましょう」と言う。
アルスラーンはとナルサスとダリューンの言葉を受け入れ、やりやすいようにしてほしいと言い、二人を見送った。

ダリューンは、「本当に心優しいお方だ。だが、ただ優しいだけでは王にはなれぬ」と言い、難しい表情をしている。

だがナルサスは「そうかな?」という。
そして、「ああいうお方だからこそ、我々も兵たちも信じてついていける。一人くらいは、そんな王がいてもいいのではないか?」と笑う。

日頃の合理主義的な発言からは予想外と思えるナルサスの言葉に、ダリューンは少し意外そうな顔をすると「ふっ、確かにな」と笑い、アルスラーンに吉報を持ち帰ることを改めて心に誓うのである。

【パルス軍、出陣】
ペシャワール要塞を出陣したパルス軍1万は、ナルサスの作戦通りに行動を開始する。

馬を並べて進軍するダリューンはナルサスに問う。
シンドゥラ軍5万に対し、今回動員するパルス軍は1万。
寡兵を以って大兵を討つことは邪道ではないのかと。

これにナルサスは笑って言う。
シンドゥラ軍は、天の時、地の利、人の和を欠いている。だからこそあえて邪道でいくと。

【パルス軍VSシンドゥラ軍】
シンドゥラ軍はペシャワール要塞に向けて進軍、夜の山道を登っている。
だが季節は冬、しかも夜の山であり、雪がちらついており、かなり寒そうである。

するとシンドゥラ軍の眼前、坂の上に双刀将軍キシュワードの率いるパルス軍が出現した。
キシュワードは軍勢を率いてシンドゥラ軍に襲いかかり、敵兵を次々と斬り伏せていく。

シンドゥラ兵は常夏の南国育ちであり、この冬の雪山では肉体的にも精神的にもただでさえ苦しそうである。ラジェンドラは、せめて温暖な季節に攻めてくればまだマシだっただろう。

さらにパルス領はシンドゥラ兵にとっては不慣れな異国の地だが、パルス兵は細かな地形まで熟知している。パルス軍は地形を活用して兵を効率的に動かし、数に勝るはずのシンドゥラ軍を圧倒する。

だがラジェンドラ配下の兵は、苦戦しながらも戦場に踏みとどまり、決して戦意を失わない。どうやらラジェンドラは、兵たちには支持されているようである。
そしてラジェンドラは全軍に押し返すように命ずる。
ラジェンドラとしては、シンドゥラ軍は兵数は敵軍の5倍であり、数に任せて突撃すれば十分勝てるというところだろうか。

その時、戦場を見下ろす崖の上に松明を掲げた軍勢が出現した。
見ると、その軍にはシンドゥラ国第一王子ガーデーヴィーの旗が何本も翻っている。

ところがガーデーヴィーの軍旗を掲げる軍は、ラジェンドラ軍に向けて無数の矢を浴びせ始めた。
この軍勢、実はパルス軍が擬装したものだが、シンドゥラ側は誰も気付かない。

動揺するラジェンドラの軍勢で、流言が流れ始める。
「ガーデーヴィーの兵が迫ってきているぞ!」
「前に出たらパルス兵に殺されるぞ!」
流言を流しているのは、シンドゥラ兵に変装したアルフリードとエラムだが、シンドゥラ兵たちは流言を疑いもしない。

ついにラジェンドラ軍は瓦解、兵たちは逃げはじめた。

【ラジェンドラ捕縛】
必死に走るシンドゥラ軍だが、氷原を走っていると突然目の前に何本もの亀裂が走った。
そしてあちこちで地面が割れ、水面が顔を見せる。
シンドゥラ軍が走っていたのは凍った湖の上だったのだが、シンドゥラ側はこの季節に湖が氷結することを知らなかったようである。

さすがのラジェンドラも、5万の大軍があっという間に戦闘力を失う姿に茫然としている。
そこにナルサスとダリューンが出現。
ラジェンドラ王子と呼びかけ、返事がかえってくるとラジェンドラに襲い掛かる。
だがラジェンドラはなかなか腕が立つようで、ナルサスとダリューンの刃を逃れ、「次に会ったら生かしてはおかんぞ!」と捨て台詞を残して乗馬を走らせる。

だが次の瞬間、乗馬が矢を受けて倒れ、ラジェンドラは落馬。
そしてアルフリードが刃を突き付け、不敵に笑って言い放つ。
「動くと死ぬよ。シンドゥラの色男。」

【アルスラーンとラジェンドラ】
ペシャワール要塞の広間に、縛り上げられたラジェンドラ王子が引き据えられた。
だがラジェンドラは「いや~参った参った」と笑い、悪びれた様子がない。

そしてアルスラーンを見ると「聞いてはいたが、こんなにかわいい大将だったか」と面白そうに笑う。

アルスラーンは、「いささか乱暴でしたが、お話ししたいことがあってこのようにご招待いたしました」と言う。
するとラジェンドラは「ほう~、驚いたな。パルスでは縄で縛って引っ立てることを招待と言うのか?」と皮肉を言う。

これにアルスラーンが「これは大変失礼しました」と言うと、ダリューンが無言で剣を抜いて剣光一閃、ラジェンドラを戒める縄を両断した。
ラジェンドラは笑ってみせるが、顔が引きつっている。

【酒豪ファランギース】
アルスラーンは宴を開き、料理と酒でラジェンドラをもてなす。
「辺境の地ゆえ、大したおもてなしも出来ませんが」というアルスラーンだが、湯気を上げるパルス料理の数々はなかなか美味しそうである。

ラジェンドラは酒の美味なことに喜び、アルスラーンにも酒を勧める。
これには困った表情のアルスラーンだが、ファランギースがラジェンドラの隣に座り、相手をするという。

美女の出現に喜ぶラジェンドラだが、「お~っと。俺も混ぜてもらおうか」とギーヴが割って入った。
そして三人で飲み比べを開始。
ラジェンドラもギーヴも酒にはかなり強い自信があるようである。

だが、まずギーヴが酔いつぶれた。
そしてラジェンドラもかなり苦しそうだが、ファランギースは平然とした様子でぐいぐいと盃を干す。
これにラジェンドラは驚愕、「この俺が酔い潰せぬとは、侮れんな、パルスの女」と内心でつぶやく。そしてファランギースが酒を勧めてくると、曖昧に笑って遠慮するのであった。

【アルスラーン、ラジェンドラと同盟を結ぶ】
ファランギースの酒豪ぶりにタジタジとするラジェンドラに、アルスラーンが声をかけた。
そして「あなたと同盟を結びたい」という。

アルスラーンはラジェンドラに言う。
「まずは我々はあなたがシンドゥラの王位につけるよう、お手伝いいして差し上げましょう。」

これをラジェンドラは一笑、他国に大敗し、辺境に落ち延びた王子に何が出来るのかと笑う。

するとナルサスが不敵な笑みを浮かべて言う。
「すでにシンドゥラ国内には通達してしまいました。ラジェンドラ王子はパルス国のアルスラーン王太子との間に、友誼と正義に基づく盟約を結んだ、とね」

ラジェンドラは、既に自分がアルスラーン一味に利用されてしまっていることを理解した。
そもそもラジェンドラは、パルス領に攻め込んで大敗して捕虜になった身である。
ラジェンドラを生かすも殺すもアルスラーンの気分次第であり、ラジェンドラの身柄をガーデーヴィー王子に引き渡すことも出来る。ラジェンドラには、死にたくなければ断るという選択肢は無い。

だがラジェンドラはあくまで強気である。
大笑すると「このラジェンドラが、お主に力を貸してやる」と恩着せがましいことを言い、同盟を了解するのであった。

【出陣の朝】
そしてパルス暦320年12月。
アルスラーンは、ラジェンドラの軍勢ともに、シンドゥラに向けて出陣する。

出陣の朝。
アルスラーンは城塞のテラスから、中庭広場を見下ろす。
そこには、ラジェンドラ配下のシンドゥラ軍が整列し、命令を待っている。

そんなアルスラーンにラジェンドラは「どうだアルスラーン殿、俺の自慢の兵たちは」と声をかけ、アルスラーンの肩に馴れ馴れしく手を回し、「よろしく頼むぞ」と言って大笑する。

ダリューンは、そんなラジェンドラに険しい目を向け、「あの男、本当に信用していいものか…」とナルサスに言う。
ナルサスは、ラジェンドラのことを利用価値があると思っているようだが、ダリューンとしては斬り捨ててしまいたいようである。

一方、シンドゥラ国。
第一王子ガーデーヴィーは、ラジェンドラがアルスラーンと手を組んだことを知って激怒。
ラジェンドラを討つことを決意していた。

ガーデーヴィーを支えるのは、世襲宰相マヘーンドラである。
宰相マヘーンドラは、既にラジェンドラ軍中に、配下を忍ばせていると言い、何か策があるようである。


【予告】
次回「シンドゥラの黒豹」

アルスラーン戦記 第13章「王子二人」

  • 2015/06/28(日) 23:42:17

【感想概略】
今回は、アルスラーン一行が、当初の目的であったペシャワール城塞にようやく到着。
いよいよルシタニアへの反撃開始かと思いきや、歴戦の老将バフマンは何故か慎重論を主張。
さらに城内には銀仮面が出現してアルスラーンと対決、自らの正体を明かす。
そしてバフマンは自らを盾にアルスラーンを銀仮面の剣から庇い、アルスラーンの出生に関わる謎の言葉を残して絶命。
一方、隣国シンドゥラのラジェンドラ王子が大軍を率いてペシャワール城塞に迫る、という一つのお話の終わりであると同時にあらたな物語のはじまりであり、面白かった。

【双刀将軍キシュワード、アルスラーン一行を救う】
アルスラーン一行は、ペシャワール城塞めざして旅を続けていた。
一行はルシタニアの執拗な追撃を何度も撃退しながら着実に旅を続け、城塞までそう遠くないところまで到達していた。
だが、これはルシタニア側にとっても、待ち伏せする地点を特定しやすいということである。

今日もアルスラーン一行はルシタニアの大部隊の襲撃を受け、馬を走らせながら逃走をはかる。
すると前方にもルシタニア部隊が出現。アルスラーンたちを挟み撃ちにするつもりである。

ルシタニア側としては、アルスラーン一行は一騎当千の強者ぞろいではあるが、数に任せて取り囲み、殲滅するつもりのようである。

その時、崖の上にパルスの大部隊が出現、パルス部隊にはナルサスの姿もある。
そしてパルス部隊は、ルシタニア軍に襲いかかった。

パルス部隊を率いて戦うのは、万騎長キシュワードである。
キシュワードは左右の腕に一本ずつ、計二本の剣を振るってルシタニア部隊に突撃、次々と敵兵を斬り倒す。

ついにルシタニア部隊はアルスラーン一行の追撃を断念、撤退した。
撤退する敵軍を追撃しなかったのは、ペシャワール城塞の兵力の強さを生き残った敵兵たちに伝えさせ、抑止効果を狙うナルサスの策である。

ナルサスの駆る馬には、前回助けたゾット族族長の娘アルフリードも乗っている。
だがアルスラーンたちにしてみれば、謎の人物である。
アルスラーンが尋ねると、ナルサスの腰に手を回して馬に乗るアルフリードは、自らをナルサスの妻と名乗った。

これにダリューンたちは驚愕、特にエラムにはショックが大きいようである。

【アルスラーン一行、ペシャワール城塞に入城】
アルスラーン一行は、ペシャワール城塞に入城した。
すると兵たちは歓呼の声でアルスラーンを迎える。

そしてアルスラーンは、出迎えた万騎長キシュワードと万騎長バフマンに言う。
「パルスはこのペシャワールから反撃ののろしを上げる!力を貸してくれ!」

これにキシュワードとバフマンは膝をついて貴人への礼を執り、侵略者ルシタニアをパルスから追い払う戦いに力を尽くすことを誓うのである。

【ギーヴとアルスラーン】
アルスラーン一行は、城塞でようやく人心地ついていた。
城内には浴場もあり、ギーヴはひとっ風呂浴びるのだが、頭に浮かぶのは、ダリューンがファランギースとずっと一緒だったということである。
ギーヴにとってこれは大問題なようで、思わず口に出てしまう。
「面白くないのは…ずっとファランギース殿と一緒だったのが…俺ではなく、ダリューンだったことだ!」

するとアルスラーンが現れ、「それはすまなかった、ギーヴ」と詫びた。
アルスラーンはギーヴに一言礼を言いたくて、ここに来たのだという。

ギーヴは慌てて弁解するが、アルスラーンはギーヴの隣に座ると改めてギーヴに礼を言う。
湯上がりのためか、ギーヴは頬を赤らめてアルスラーンの感謝に恐縮するのだが、まんざらでも無さそうである。

【アルフリードとエラム】
アルフリードは、ナルサスの部屋を訪ねた。
が、ナルサスは見当たらず、荷物を解くエラムに尋ねると会議中だという。

するとアルフリードはエラムに、「じゃあさ、ナルサスのこと、教えてよ!」と屈託なく言う。
が、エラムはアルフリードをお前呼ばわりし、「ナルサスさまの好物も知らないくせに」と言い、アルフリードへの敵意を隠さない。

エラムとしては、これまで自分がナルサスの世話をしてきたのに、ナルサスのプライベートにずけずけと入り込もうとするアルフリードに対し、ナルサスを横取りしようとしているように思えて気に入らないというところであろうか。

【アルフリードとファランギース】
アルフリードは、ファランギースと同じ部屋にいた。
二人は女性ということで、城内では相部屋のようである。

エラムの態度にアルフリードは立腹してひとりごちる。
「なんだよアイツ!!!ナルサスのなんなんだよ」

ファランギースは矢を手入れしながら、アルフリードに言う。
「もしナルサス卿を好いておるのなら、妨げにならぬようにすることじゃ。
あの御仁は今のところ、女よりも一国を興すことに夢中になっている。
しばらくは見守ってやるのもよかろう?」

これにアルフリードは、新しい国なんか作ったって、新しい貴族と奴隷が出来るだけと言い、ナルサスの没頭する国づくりに否定的である。

だがファランギースは言う。
「お主のナルサスなら、それを克服するような道を見つけるかもしれぬぞ」

ファランギースの言葉をアルフリードは神妙に受け入れ、ナルサスと早く結婚したいという自分の希望を今は保留とし、今はナルサスのやりたいことを応援するつもりになったようである。
これはファランギースの言葉に、アルフリードへの優しさを感じたからだろう。

【アルスラーンとキシュワード】
アルスラーンはキシュワードに、ルシタニアを追い出したら奴隷の解放を行なうつもりであることを明かした。
アルスラーンは、キシュワードに熱心に訴える。
奴隷解放は困難な事業であること、だが事前に入念な準備を行い、国をあげて取り組めば可能であると。

キシュワードは、アルスラーンが深く考え、信念に基いて社会改革を行なう決意であることを理解した。
そして、個人的にはアルスラーンの事業に賛同する、しかし奴隷解放を掲げれば国内の諸侯の協力を得ることは難しくなると指摘する。
これはアルスラーンも分かっている。
それでもアルスラーンは揺らがない。
「パルスは、全く元通りという訳にはいかないだろう。前よりもこの国が良くなるのでなくては、戦う意味もない」

【ペシャワール城塞の軍議】
ペシャワール城塞では、万騎長キシュワード、万騎長バフマン、そして城将たちと、アルスラーン、ダリューン、ナルサスが参加しての軍議が開かれていた。議題は、ペシャワール城塞の兵力で挙兵し、ルシタニアをパルスから追い出す作戦についてである。
だがバフマンは、今は国内諸勢力の動向を見極めるべきと唱え、すぐに軍事行動を起こすことに反対する。

ナルサスは、バフマンの慎重論を嘲笑して言う。
「敵に後れを取ったこと無きバフマン殿なれど、老いとは酷いもの。ただ安楽に老後を送れればよいとお考えだろう。」

これにバフマンは激怒、退席してしまう。
だがナルサスは、バフマンは怒ったふりをして慎重論の理由を追求されることを回避したのだと指摘、バフマンに疑念を抱いている様子である。

一方バフマンは、旧友ヴァフリーズから受け取った書状を前に、思い悩んでいた。

【アルスラーンと銀仮面】
ペシャワール城塞の城壁、アルスラーンは一人、沈む夕陽を眺めながら、改めて思っていた。
幼いころは、自分が王子であることすら知らなかった。
それが王宮に上がり、王太子として暮らし、初陣で大敗して敗残の身となり、今はこんな辺境の地にいる。
あまりの運命の変転に、そして王太子として国を背負う重責に、まだ14歳のアルスラーンは心中でつぶやく。
「父上と母上を救い出し、国を平定するなど…私にできるのだろうか…」

その時、何者かが城壁に姿を見せた。
銀の仮面をかぶり、腰に剣を下げた若い男性である。
アルスラーンは彼が話に聞く銀仮面であることを悟った。

一方、銀仮面はアルスラーンに対し、激しい憎悪の炎を燃やしている。
銀仮面はアルスラーンの父アンドラゴラスを罵倒。
そしてアルスラーンを見て凶悪な笑みを浮かべる。
「すぐには殺さぬ。
まずは貴様の右手首を斬り落としてくれよう。
次に会ったときは左手首をもらう。
それでなお生きていたら、右の足首でも頂戴するとしようか。」

【アルスラーンVS銀仮面】
アルスラーンは剣を抜くと銀仮面に突撃。
が、銀仮面は軽くかわすと剣を振り下ろす。
アルスラーンはどうにか剣で受けとめるが、銀仮面の斬撃は速く、重い。
数合でアルスラーンは剣を弾き飛ばされてしまう。

銀仮面は予告どおり、アルスラーンの右手首を狙って剣を構える。
その時、アルスラーンは咄嗟に城壁の松明を掴み、悲鳴を上げながら振り回した。
恐怖に駆られての無我夢中の行動だが、銀仮面は炎に過去のトラウマがよみがえり、近づくことが出来ない。

この隙に、ファランギースが駆けつけ、銀仮面に矢を放つ。
銀仮面は剣で矢を弾くが、ファランギースは銀仮面の間合いに踏み込んで剣を振るう。

さらに、ナルサス、ダリューン、キシュワードが駆けつけ、銀仮面に剣を振るう。
だが銀仮面は、この最強クラスの三人を相手に剣を裁き、剣を振るい、全く危なげがない。

アルスラーンは銀仮面に叫ぶ。
「いま一度問う!お主は何者だ!」

すると銀仮面は不敵に笑って答える。
「俺は、先王オスロエスの子ヒルメス!」

そして銀仮面は、ナルサス、ダリューン、キシュワードの一瞬の隙を突いて囲みを突破、立ち塞がるファランギースをかわし、アルスラーンに必殺の突きを繰り出す。

その時、万騎長バフマンが銀仮面とアルスラーンの間に割って入る。
銀仮面の剣はバフマンを刺し貫く。

致命傷を負ったバフマンは微笑を浮かべて言う。
「お懐かしゅうございます、ヒルメス殿下」

実はバフマン、ヒルメスの剣の師匠である。
ヒルメスは少年の頃、バフマンにかなわず、何度も叩きのめされていたが、バフマンは厳しくも愛情深くヒルメスに稽古をつけていたようである。

ヒルメスは瀕死のバフマンに「なぜ邪魔をした」と問う。
なぜ恩師バフマンがアルスラーンを庇うのか、ヒルメスには理解できない。

するとバフマンは答える。
「我が友の願いは…アルスラーン殿下をお守りすること…どうか、お退き下さい…」

ヒルメスは、離脱を図る。
ダリューンはヒルメスを追撃して剣を振るう。

が、バフマンはダリューンを止めて叫ぶ。
「殺してはならん!あの方を殺せば、パルス王家の正当な血が絶えてしまう…」

バフマンの言葉にダリューンたちが驚愕する隙に、ヒルメスは逃げおおせた。

【シンドゥラ軍接近】
アルスラーンは、倒れたバフマンを抱きかかえる。
瀕死のバフマンは、アルスラーン詫びた。
「殿下…申し訳ございません。私は…友の言葉を受け止められず、おびえておりました…」

バフマンはアルスラーンに「よい王とおなり下され…」と言い残し、死んだ。

その時、伝令が駆け込み、隣国シンドゥラの軍勢が国境を突破しつつあることを報告した。
バフマンの死を悼む間もなく、アルスラーン一行には新たな危機が迫りつつあるようである。

一方、シンドゥラ軍を率いるラジェンドラ王子は不敵な笑みを浮かべ、心中でつぶやく。
「ガーデーヴィーめに先を越されてなるものか。
シンドゥラ国の歴史に不滅の名を刻むのは、この俺よ!」

【予告】
次回「奪還の刃」